座談会「ビジュアル空間をつくるプロフェッショナルのシゴト」 その2
(『見本市展示会通信』2011年11月15日付号掲載の座談会を再録しました)
リアルとバーチャル
いかに使いこなすか
中田 それでは、みなさんの最近の仕事についてお聞きします。みなさん、現場に直接携わることはほとんどないと思うので、会社として関わったとか、そんなところで。小島さんから。
小島 コンベンション系ですと、手術の中継が多いですかね。オペ室から内視鏡とか血管造影の映像をフルHDで撮影して遠隔地に送り、そこでドクターたちが見て討論するという。
中田 それを3Dで見せたりもする。一般人にはキツい映像でしたが(笑)、医学系の学会には非常にニーズが高いそうですね。
小島 そうですね、やっぱり人集まりますし。
あとはコンサート系を中心にいろんなイベントで、ストリーミング配信もニーズが高まっています。なのでわれわれは映像屋ですけども、プラスアルファの知識としてネットワークやウェブに関するスキルがないと、これからは仕事が回ってこないくらいに考えています。
中田 それって専門の会社がやることでは。
小島 ウチは専門の部署をつくっています。通信回線の手配からウェブの配信、中継などをやる部隊が。
中田 そういう時代なんですね。
映像センターさんは最近どんなお仕事を。
戸村 ちょっと前ですが、新高輪プリンスのパミールの横幅全部をスクリーンにして、プロジェクタ10台で映したというのがあります。
50m近い幅になるんです。こんな場所を「じゃあ映像にしてみようか」って発想しちゃう人がいるわけですよね。そしてわれわれは実現できるハードと技術をもっている。
こういう仕事で実感するのは、もはや4対3とか、16対9といったテレビフレームの縛りがなくなっているということ。さらにいまは、横長だけでは飽き足らなくなってきていて「そこに立体物も混ぜて投影してみよう」と。これがプロジェクションマッピングです。
映像のカタチが自由になっていますね。
中田 シースルーLEDもそうした道具のひとつでしょうか。
戸村 そうですね。多彩なモジュールが開発されて、もはやビジュアル演出は空間づくりと密接に絡んでいるし、コンテンツの勝負になっています。
したがってわれわれには、空間映像のハードやソフトを理解したうえで、クリエイティブ性だったり、もっと言えばアーティスティックな感性までもちながら、クライアントへの提案力というスキルまでが求められているなと。
中田 表現力という言葉でまとめられますかね。
戸村 そう思います。先ほど鷲さんがおっしゃったように、重要なのは伝えるべき対象に伝えることで、最新の技術も、最悪、映像を使う必要もないなと。
あるソフトウェア会社のプレゼンだったんですけども、用意したのはOHC1台だけ。何が始まるのかなと思ったら、その人、何かハサミでチョキチョキ切って糊で貼りはじめて・・・
中田 アナログですね。
戸村 そうなんです。開くと立体になる絵本、あれをお手製で作ってきて紙芝居みたいにプレゼンはじめたんです。刺さりましたねえ(笑)
映像だ映像だって偉そうなことを言っても、実はいろんな制約のなかで、現物をいかに装飾してそれらしく見せるかなんですね。サイズ、時間、予算、いろんな制約があって、仕方なくこの中で表現しましょうよってときに、紙芝居が出てきた。やっぱり表現力なんだなと。
中田 考えさせられますね。
ではタケナカさんですが、最近特に、プロジェクションマッピングに力を入れているようですが。確かオリジナルブランドをつくって展開していましたね。
長崎 そうですね、独自のコンテンツ制作ノウハウを使って「Beam Painting」という名前でサービスを提供しています。
マッピング自体は、ヨーロッパを中心に広がった映像演出ですが、事例がインターネットの動画サイトに流れ、日本のクリエイターの間でも話題になりました。
それで弊社も2年くらい前からこの技術に取り組んできましたが、実際に仕事になりだしたのは、ここ1年くらいですかね。
最近ですと、8月に「ならファンタージア~SANZO~」というイベントで、国立博物館の建物に、国宝・玄奘絵巻の物語を映し出しました。また、おもしろ いところでは、クルマやPCをメディアにしてコンテンツを投影するといった仕事で、これらはテレビコマーシャル用につくりました。
中田 CMですか。これまでなかった仕事では。
長崎 CMプロダクションとはあまり接点がなかったですからね。われわれの機材が脇役的に使われるような仕事はありましたけど、今回のCMのように、表現手法の 主役になることは経験がなかったので、新しい世界を覗いた気分です。
中田 プロジェクションマッピングのビジネスとしての可能性を感じます。そして、ビジュアル演出においてコンテンツ制作は重要な要素なんですね。
長崎 10年くらい前までは、映像に掛ける予算なんてイベント全体の5%とか 10%もあれば多いくらいでしたが、いまは、ソフト部分まで入れると半分近くを締めるイベントもあります。それだけ映像に求められることが、昔に比べると 圧倒的に多い。
そういう流れのなかで、弊社では10年前にコンテンツ制作の専門部署を立ち上げて、そこにちょっと力を入れてきました。それに、うちはもともと、マックレイさんや映像センターさんのような規模ではないので(笑)、そういう意味では何か特徴を出すためにも変わったことをやりたかったっていうのはあります。
中田 コンテンツ制作などは、映像センターさんもマックレイさんも取り組んでますが、映像機器レンタルの会社にとって、そういう部分が非常に大きくなっているのかなと。鷲さんも感じているのではないかと思いますけど。
鷲 リアルとバーチャル。アナログとデジタルと言ってもいいと思うのですが、これをどうシームレスに融合するかというアイデアだったり表現力で仕事をする時代 なんだなと。戸村さんがお話しされた、OHCと開く絵本の事例は、まさにアナログとバーチャルの融合ですよね。そして、その極めつけがプロジェクション マッピングとも言えるのかな。
ビルや博物館など凹凸のあるオブジェクト、リアルに対して、最新のデジタル技術で緻密に光と影を調整しながら、CGというバーチャルなコンテンツを融合さ せて、建物と一体感をもって表現するところに、驚きとかウィットとか面白さがあるんですよね。空間をつくるというのも、やっぱりそういうことだと思いま す。
機材の進化が生む
新しい映像の世界
中田 空間づくりという考えで見ると、舞台屋さんとか屋外広告業界などもビジュアル抜きには語れなくなっていて、業種の壁がなくなっているなと感じます。
戸村 先ほど出たシースルーLEDの登場は映像業界を変えたと思います。あれを最初につくったのはコマデンさんでしたっけ。
中田 そう聞いてます。「シースルービジョン」ですね。
戸村 そうですよね。コマデンさんは舞台の電飾装置からはじまっている会社ですよね。あの発想って電飾なんですよ。だから当時のシースルービジョンは映像のイン ターフェイスをもっていなかったはずです。彼らは、自分たちがプログラムしたCGを表現するための道具としてあれをつくったんだと思うんです。
小島 照明屋さんがやってた技術ですよね。彼らは何に困っていたかというと、コンテンツをいかに出力するかという技術だったと思うんですよ。その辺はわれわれ映像屋の仕事で差別化できていましたが、いまは彼らもやれるようになってますね。
中田 シースルービジョンは照明機器の延長なのか新しい映像装置なのかわからない。
小島 照明では表現しきれないところをLEDが可能にしてきたわけです。われわれ映像屋としては、コンテンツのほうに注力してやってきましたから。ライブステー ジでも、バックに流す映像は、装置の優劣ではなくて、どれだけネタもっているかということのほうがよっぽど大切で。そこにみんな力入れてるのはないでしょ うか。
戸村 シースルービジョンが業界にイノベーションを起こしたことは間違いない。
あれが4対3とか16対9っていう概念を壊した理由のひとつにもなっていますからね。それからどんどんドットピッチが細かくなっていって絵が精細になって くる。そうすると、僕らが使っている高精細のLEDビジョンもシースルービジョンも、ほとんど実は変わらなくなっちゃう、同じものになっちゃうってことで すよね。