MPIリレー連載 その3
インセンティブで差を付けろ
浅香雅司氏
MPI Japan Chapter 理事 MICE Service EVEN 代表
企業の命運をかけたイベント
トラブル対応は全力で
プロ野球選手の契約では、ホームランをたくさん打ったりタイトルを獲得したら、給料とは別にボーナスが支給される出来高払いという仕組みがあります。企業でも同様にインセンティブがさまざまな業界の販売員に適用されています。MICEビジネスでのインセンティブとは、成績優秀な人たちを集めて旅行に連れて行ったり、イベントに招待することを指しています。今回はもっともインセンティブを効果的に活用している訪問販売企業を例にインセンティブのポイントを説明します。
ホテルで開催されている一般の宴会や催しとインセンティブの最大の違いは、主催者のイベントにかけると費用と想いです。とくに訪問販売の業界では私の知る限りすべての企業がインセンティブ・トラベルを実施しています。それも1回に億単位の費用をかけることも多いのです。主催企業は社長をはじめ社員総出でイベントに取り組みます。
なぜそこまで重要視されているかというと、ほとんどの訪問販売企業で売上の大部分を販売員があげており、なかには1人で1億円を超える売上を稼ぐスラッガーもいます。います。つまりインセンティブは企業の経営を左右する、大切なお客様への大事な報償、接待の場なのです。
インセンティブプランナーにとっての成功の定義は、翌年の企業の売上げに貢献することとも言い換えられます。なぜなら、高い目標をクリアして招待された参加者はそのことにプライドを感じていますので、「来年も招待されたい」とモチベーションを向上させる演出が成功すれば、企業の売上に直結するのです。逆に小さなミスも企業にとっては大きな痛手になります。お金を支払う主催企業へではなく、招待客に最高のサービスを提供してほしいのです。
招待客へのサービスが不十分ですと、主催企業が利用しなくなるだけでなく、招待客やその周りの人もホテルを利用しなくなるかもしれません。招待されたトップセールスの人は口コミの達人です。良い評判を流すことで商品を売ってきましたが、その反面、意図せずとも悪い評判を広める力もあるのです。
非常識がスタートライン
招待客は営業成績が優秀な方ばかりで高額な金銭的報酬も得ていますので、豪華な食事や宿泊施設というだけではそれほど印象に残りません。インセンティブに求められるのは、
・観光旅行では体験できないプレミアム感
・真心こもったハンドメイドのおもてなし
・招待されたことへの誇りを喚起
などです。たとえば「ありがとう」ではなく「おめでとうございます」とチェックインの際に声をかけることや、ナプキンの折り方のような小さな工夫でもいいのです。そのパーティのため、その人のために特別にご用意したという心遣いが必要なのです。
ホテルで働くみなさんにご理解いただきたいのは、日常生活や観光旅行では経験できない特別な接遇をするのがインセンティブの目的だということです。そのために世界中のプランナーはみなさんから見たら奇想天外な要望を出すのです。もちろん法令や施設の使用条件、営業方針などによりできないことがあるとは思いますが、できそうなことだけをやっていては決して特別な体験にはならないのです。「これはムリそうだ、非常識だ」というところをスタートラインにして、さまざまな要望にいかに応えるのか、代替案を提案していただくことがホテルマンのスキルだとプランナーは考えています。前例はみずからつくるという気持ちで無理難題に対応してください。それがひいてはサービスをクオリティの向上につながるのではないでしょうか。手間の掛かるインセンティブをパスするのか、取り組むのかは各社の営業判断だと思いますが、新規をとるよりリピーターを獲得していくのが得策ではないでしょうか。
Profile
浅香雅司氏(あさか・まさし)
MPI Japan Chapter教育担当理事。 プラスチック製密閉容器のネットワークビジネスを展開する日本タッパーウェア㈱で、多数のイベントやインセンティブ・トラベルの企画・制作を手がける。現在は企業のインセンティブやMICE全般のコンサルティングを行なっている。