データ活用によって拓かれる展示会の未来 フジヤ

コロナ禍で難しい舵取りが求められる中、フジヤはクライアントと真剣に向き合い、独自のサービスを開発・強化してきた。この2年半のフジヤの企業活動をたどることは同時に、展示会の変遷を理解し、新しいニーズを掴む上でのヒントになるだろう。今回は第1イベントコミュニケーション事業本部の入谷義彦副本部長、佐々木大輔氏、土田美帆氏に話を聞いた。

「見本市展示会通信」2022年10月15日号・第884号掲載)

バーチャル展の進化がリアル展に新たな価値を生む

―新型コロナウイルスによって、展示会産業にどのような影響がありましたか

入谷 義彦 氏 第1イベントコミュニケーション事業本部 副本部長 セールスプロモーション担当/クリエイティブディレクター

入谷 2020年、新型コロナが始まってリアルな展示会がタブーとなり、オンラインのツールを使ってコミュニケーションの場をつくる模索が始まりました。「どうにかして展示会を開催できないか?」という主催者の要望に応えて、WEB上で展示会を開催するオンライン展示会サービスを立ち上げて実施していきました。

オンライン展示会では、積極的に来場者データを開示する主催者も現れ、出展者にも大きなメリットがあることが明らかになり、オンライン展示会のプロモーションメディアとしての可能性が見えてきました。さらに、リアル展示会との複合型も登場することで、オンライン展示会で先行的に来場者情報の獲得が可能になりました。展示会がオンラインも含めた複合型のメディアとなる流れは今後も浸透していくと思います。

佐々木 大輔 氏 第1イベントコミュニケーション事業本部 セールスプロモーション事業部 デジタルプロモーション室 課長

佐々木 新型コロナによってリアル展示会の開催がなくなりオンライン展示会にシフトした当初は、主催者や出展者から、データを収集しやすくなったことや遠方や海外からの来場が増えたことが評価されました。しかし翌年以降、徐々にリアル展示会の開催が戻ってきたことでオンライン展示会への期待や関心も薄れるとともに、出展者側もリアル展示会との同時開催は負担が大きく、オンライン展示会の勢いは弱まりました。

一方でリアル展示会へと戻ったものの、出展者はオンライン展示会での経験で情報集約の利便性を感じていたので、いかにオンラインと融合させて効率的にリードを獲得するかというニーズが生まれリアルとオンラインを同時に開催するハイブリッド展示会が誕生しました。

当社は積極的にオンライン展示会にも取り組んでいたので、事前のオンライン展示会での登録・アクセスデータから、リアル展示会での来場者データまでを集約するトータルサポートを構築していったのです。

クライアントニーズに応えるトータルサポート体制

―「ネクシビ」や「ツーカン」など、コロナ禍を発端に展開を開始したサービスについて教えてください

土田 美帆 氏 第1イベントコミュニケーション事業本部 セールスプロモーション事業部 デジタルプロモーション室 チーフディレクター

土田 「ネクシビ」は、フジヤが独自に構築したバーチャル会場内でさまざまなプロモーション活動が行えるプラットフォームです。当社は従来、リアルな展示会で数多くのブースを制作してきましたが、われわれのデザインや運営のノウハウをバーチャル上でも活かせるよう開発を進めました。

その後、リアル展示会が復活する中で、リアル・バーチャルを問わず、出展者のマーケティング活動を“一気通貫”する顧客管理システムとして開発した「ツーカン」は、来場者の登録から受付、会場で行うセミナーやアンケート、開催後のお礼メールといった各アクションで得られるデータを一括で管理します。それによって、展示会に出展する企業は開催前の集客や会期中の来場者管理、開催後のデータを活用した営業活動を効率的に行うことができます。

これらは、コロナ禍以前からクライアントの要望に応じてサポートしてきたものをパッケージ化したサービスです。実際にサービスをスタートするとクライアントからの要望が顕在化してきます。例えば、ネクシビ内のコンテンツとしてウェビナーなどの配信に関する相談が増えたことを受け、最近「動画作成・配信フルサポート」サービスを開始しました。配信イベントの企画や運営までも含めて、文字通り“フル”でサポートします。

分かりやすいパッケージプランは用意していますが、機能を追加したり省いたり、自由にカスタマイズできる点も大きな特徴です。ニーズに合わせ改善し、クライアントに寄り添い、マーケティング施策に取り組んでいく姿勢はこれからも変わりません。

「データ取得による顧客獲得のメディア」へと進化する展示会

―フジヤとしての展望、あるいは展示会産業の今後の見通しはいかがでしょう

佐々木 展示会やイベントなどリアル空間事業に長く携わり、こだわってきたからこそのアイデアが当社にはあります。例えば、バーチャル空間における展示会ブースづくりでも当初は、リアル展示会と同様の空間を再現していました。しかし、実際に展示会場を歩くのと、デバイスで操作するのでは空間の認識は異なります。かなり早い段階で発想を切り替えて、没入感の高い独自の展示会空間をバーチャル上でも構築することができました。今後は、見せ方のみならず、データの取得・分析においても、われわれの強みが生かせると考えています。

入谷 今後はメタバースなどバーチャル空間でのプロモーションが拡充し、さまざまな世界とコミュニケーションが生まれていくでしょう。しかし、体験価値を提供できるリアルな展示会やイベントは決してなくなりません。オンラインの活用によって、事前にマーケティングを行い、その結果で展示会を選定し、会場では来場者のリアルな反響や競合会社の戦略を調査し、取得したデータで次の戦略を立てていく。結果を想定して出展することで次に進むべきステップへの判断が早くなります。

当社は、展示会を「データ取得による顧客獲得のメディア」としてまるごとコンサルティングし、出展者をトータルサポートしていく事業を展開していきます。