[インタビュー]回復するドイツ見本市とシステム部材のこれから – 独・オクタノルム社

八角形のポール(柱)とビーム(梁)をテンションロックで接続するアルミシステム部材である「オクタノルム」は利便性や環境性に優れ、それゆえ世界中の見本市で普及している。今回、パートナー企業への訪問のため来日した独・オクタノルム社のハンス・ブルーダーCEOとベンジャミン・ブルーダーCEOにオクタノルム社およびオクタノルム製品の誕生秘話や今後の展望、さらに今年2月に出展する「ユーロショップ2023」について話を聞いた。
(本紙=ピーオーピー、通訳=オクタノルムジャパン)

*本記事は2023年1月1日発行の『見本市展示会通信』第889号で掲載した内容をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は取材当時のものです。

世界中に浸透するオクタノルム

―オクタノルム製品の誕生秘話は

ハンス・ブルーダー氏

ハンス・ブルーダー(以下、ハンス) 1960年代後半、オクタノルム社の創業者であるハンス・シュテーガーは、創業前は展示施工会社を経営していた。そのような中、顧客からは展示台などの什器を購入ではなく、レンタルできないかという要望が増えていた。それまでは展示会ブースの什器は木工製作が主流で、会期終了後に廃棄されることが多かったのだ。
そこで彼は展示会用に素早く組立・解体が可能で、強度もあって使い回せる部材の開発に着手し、八角形のアルミポールとテンションロックを使ったシステム部材を考案した。そして1968年12月6日、自社工場内で主催する記者会見で製品を紹介したのだが、そのときの会場である部屋そのものをオクタノルムの製品で設えた。そしてプレゼンテーション後、ランチを終え、記者がもとの会場に戻ってきたときには、その部屋はなくなり、工場内には工作機械が置いてあるだけだった。つまり1時間の間に記者会見場を解体・撤去してみせたのだ。そのパフォーマンスが大きなインパクトとなり、多くのメディアがオクタノルムを取り上げた。製品に対する施工会社からの反応も良く、問合せが増えたころにオクタノルム社を創業した。
それからの普及は早かった。というのも彼はオクタノルムの開発以前にガラスショーケースのシステムを開発していたため、すでにオーストラリアやアメリカ、カナダ、ヨーロッパ諸国などに代理店や販売会社が存在していた。ゆえに世界中とのコンタクトがスムーズに行えたのだ。

1968年12月6日に行われた記者会見当時のようす

―なぜ世界中に受け入れられたか

ハンス OSPI(Octanorm Service Partner International)というメンバーシップを1984年に設立したことが大きい。これによって出展者、とりわけ国際的に活躍する出展者は安価でブースを作れるようになった。
OSPIのコンセプトは“Designed Here. Built there.”(ここでデザインし、現地でつくる)。オクタノルムの施工会社ネットワークを世界に広げ、部材の長距離輸送を不要とすることで環境にやさしく、コストも抑えられるようになった。
かつては国際的な見本市の多くはドイツで開催されていた。それが次第に分散化し、あらゆる国で大規模な見本市が開催され、人を集めている。そのような中で出展者が安心して外国の施工会社に依頼できる仕組みであるOSPIが受け入れられた。同じ部材を持ち、世界中のネットワークを有するグループは他にはない。現在、パートナー125社が50カ国にあり、およそ78カ国で施工ができる。また2年に1度は世界各地でOSPI会議を開催している。パートナー同士で意見や情報を交換し、協力しあえる環境を整えている。

―日本市場をどのように捉えているか

ベンジャミン・ブルーダー氏

ベンジャミン・ブルーダー(以下、ベンジャミン) われわれにとって非常に興味深い。今回、東京ビッグサイトで開催された「JIMTOF2022(日本国際工作機械見本市)」を見学したが、システム部材が多く活用されていた。ドイツよりも多いのではないかと感じるくらいだ。耐久性やリサイクル性、素早く組立・解体しなければならないという日本の環境にマッチしているのだろう。
また街中で内照式LEDサインであるオクタルミナを活用する店舗も見学したが、普及が進んでいるようだ。数十年使えるオクタノルム製品は、展示会と店舗内装の2つの市場においてまだまだ可能性を秘めていると考えている。

―日本は独自の基準やサイズ、デザインで運用しているが問題点は

ハンス 施工会社にとっては大きな問題はないだろう。アルミはフレキシブルにカットできるからだ。しかし出展者にとっては不利かもしれない。世界基準としては一般的な2500mmのグラフィック(ファブリック)は、2700mmが普及している日本でだけ使えない。外国の企業が日本で出展しようとすると新しいものをつくらなければならないし、ブースデザインも日本の場合のみ、高さを変更してデザインし直す必要があるだろう。
また日本ではあまり見かけないが、天井吊りや床上げは欧米では一般的で、ブースデザインの観点から考えても優位性がある。

ベンジャミン 日本でシステムブースが多いと感じたのは、もしかしたらファブリックが少ないからかもしれない。最近ドイツではファブリックでシステムを隠すという手法が多用され、実際はシステム部材を多く使っていてもそう感じさせない。

―模倣品への対応は

ベンジャミン 独・フォルクスワーゲンの社長が「良いものは必ずコピーされる。とても良いものはさらにコピーされる」と言ったことがある。
われわれは細心の注意を払って調査を行い、ときには法的措置を取るよう動くこともあるのだが、コピーと戦うという意味では、新しいものを開発し続けるという姿勢も大事だ。イノベーションを通じて常にコピー品の先を行き、コピーできないほどクオリティの高い製品を開発していくことに注力したい。

ドイツの見本市事情

―コロナ禍でのドイツの見本市の状況は

ベンジャミン 前回の「ユーロショップ2020」の頃からパンデミックが始まったことで、ドイツでは開催件数がゼロになり、見本市を生業にする企業は苦しんだ。政府からの補助金は出たものの、それだけでは足りず、絶えず人が辞めていくような状況で仕事が必要だった。そんな中でワクチン接種会場やPCR検査会場へ当社は積極的にシステムを提供し、施工会社は設営することで仕事を何とか生み出すことができた。
本格的に見本市が戻ったのが今年の3月。ドイツの場合は0か100かがはっきりしているため、開催すると決めたら完全に動かす見本市が多かった。ただし施工会社の数は減ってしまったため、需要が供給を上回りブース施工費が高騰するという現象が起きている。
コロナ禍はオンライン見本市も行われ、ストリーミング配信の際の背景に壁やブースを建てていたが、見本市が本格的に戻ってからは減った。

ハンス 本格的に開催が始まっても、ドイツの見本市は国際展が多いため、感染状況や世界情勢によって来場者が減ってしまっている事実はある。中には30%ほど来場者が減った見本市もある。ただし、一方で専門的な来場者、すなわち本気度の高い来場者の割合が高まったという報告もあり、出展者の満足度は高いようだ。人は少なくなっていてもビジネスは成立しており、このまま順調に復活するだろう。

―コロナ禍を経て、ブースに変化は

ベンジャミン 最近の傾向としてはシステムブースが増えていると感じる。システムブースに比べて木工ブースは手間がかかるため、人手が足りない状況では難しい。さらに木材の値段が上がっていることも理由のひとつだ。出展者も施工会社も経済的に余裕がないところが多いのだ。もっともアルミニウムや鉄も同様に高騰しており、製造や輸送の時間は以前よりもかかるため、納期に間に合わせられる企業が利益を得ているという状況である。

注目集まるユーロショップ2023

「ユーロショップ2020」オクタノルム社ブース

―今年開催されるユーロショップ2023の見どころは

ハンス 2月26日から3月2日まで開催される、施工会社や見本市関連会社のための見本市である。会場はメッセ・デュッセルドルフの全ホールを使用するが、今回オクタノルム社はホール1へ移動した。メインエントランスから入ってすぐのホールだ。

ベンジャミン ブース面積は327㎡で、今回のスローガンは「Gate to the future」。先進的・未来的という言葉が似合うブースデザインを計画しているので楽しみにしてほしい。
また現在開発中の新製品も展示する。われわれは3年に1度のユーロショップに向けて一丸となって製品を開発している。それほど特別な見本市だ。ぜひとも日本からの多くの来場者に見てもらい、多くの情報を持ち帰ってもらいたい。