[インタビュー・観光活性化戦略]歴史的資源のデジタル演出でシティプロモーション成功へと導く – タケナカ・長崎英樹氏

お城はその文化的・歴史的価値から人気の観光スポットとなりやすい。また光や映像で彩る演出は、文化財として貴重に扱うべきお城との相性も良い。現存天守12城のうち「姫路城」「高知城」へのプロジェクションマッピング実績があり、ナイトイベントやデジタル演出に詳しい長崎英樹氏(タケナカ専務取締役・シムディレクト代表取締役)に話を聞いた。

◆企画書とプレゼンで情熱を伝える

―お城へのプロジェクションマッピング事業はコンペを経て選定されることが多い中、高いコンペ勝率を維持しているようですが、企画書やプレゼンのポイントを教えてください

長崎 英樹 氏

企画を立てる際は、印象に残る内容にすることはもちろん、加えてその場所、そのお城ならではのオリジナリティを重視しています。お城の仕事で地方自治体の方と関わる中で思うのは、誰もが自分たちの地域のお城を愛しているということ。他所のお城でも成り立つような演出の提案は受け入れられることはないと考えています。

またプレゼンは企画書に込められた思いをしっかりと伝えることが重要です。企画書を書き、プレゼンまで私たちが行うことにこだわっています。企画書を書いた本人の言葉でなければ、心の底から携わりたいという気持ちを伝えそこねてしまうでしょう。私たちはプレゼンまでさせてもらえない案件なのであれば辞退することさえあります。

◆プロジェクションマッピングの歴史と未来

姫路城夜間イベント「姫路光絵巻 HAKUA -新たなる羽ばたき-」 天守へのプロジェクションマッピング

―代表的な事例のひとつに2015年に行った姫路城へのマッピングが挙げられます

2015年はプロジェクションマッピングに対する世間の認知度や注目度が高まってきた時期であり、姫路城は5年半にもわたる「平成の大修理」後で、人々の関心が集まっていたタイミング。それらの相乗効果で多くのメディアからも取り上げられ、予想以上の集客でした。

経験上、マッピングイベントを開催する際、その地域の人口の10%を集客できれば大成功といえます。姫路市の人口は約53万人なので、1日あたり5万人を予測しましたが、会期3日間で19万人をカウントしました。実際には会場内に入れなかった方もいたため、お城の周辺にはさらに多くの人が集まりました。裏話ですが、2015年に人を集め過ぎてしまった結果、翌年は入場を有料にし、天守へマッピングしないことを条件にしなければ、安全面の観点から実施許可が下りませんでした。

振り返ると、その頃が野外の大型プロジェクションマッピングのピークだったといえます。

―直近の事例には高知城へのマッピングがあります

高知城天守へのプロジェクションマッピング

高知城では例年、プロジェクションマッピングのイベントを開催しています。2022年、はじめて当社が担当することになりましたが、姫路城のときとは、また違ったプレッシャーがありました。というのも、地元の来場者にとっては恒例行事であり、演出の変化や進化を楽しみにしている人も多いはず。その期待値を超えたい思いがありました。

また今回、どうしてもこだわりたかったのが無料エリアの設置です。有料のメインコンテンツにつながる入口階段をリッチにマッピングしました。できるだけ多くの人に楽しんでほしいという思いと、あとに続くメインコンテンツに対する当社の自信をアピールしたかったのです。

高知城夜間イベント「Art+ +高知城 ひかりの花図鑑-牧野富太郎と植物を愛した画家たち-」の無料エリア「入口階段 花手水の階段」

―2015年にピークを迎えてから約8年が経ち、とりまく環境はどのように変化しましたか

SNSの普及が大きな変化をもたらしました。拡散力が集客に結び付くケースが多いため、われわれも常に意識しています。プロジェクションマッピングは映像と音のコンテンツゆえに、SNS動画との相性が良いと思いきや、実は静止画が重要なのです。コンテンツ制作においても、ある一瞬を切り取ったときに、耐えうるグラフィックになるかどうかを重要視しています。ときには、思わず写真を撮りたくなるようなシーンを意図的に用意することもあります。

また一方で、特に一般企業からの屋外かつ大型のプロジェクションマッピングの依頼は減少傾向にあります。しかしながら、屋内で実施することが増えたり、小型化・常設化が増えました。求められるマッピングのスタイルは変わりつつありますが、仕事量は変わりません。つまり、広告・宣伝という文脈においては、屋外の大型マッピングの役目は果たしたのだと思います。

―文化としての定着、あるいは大衆化が進んだともいえますが、そのような中でこれからのクリエイターに求められることは何でしょうか

今や大きくて、きれいなだけでは成立しません。驚きを生み出すには、新しいものを足したり引いたり、演出を変えることによって付加価値を高めなくては。クリエイターにとって大きな課題ですが、一方で刺激でもあり、鍛錬にもなります。これからは実力のあるクリエイターだけが残るでしょう。

われわれは、やりつくしたとは思っていません。なぜなら、新しいテクノロジーは日々生まれていて、その組み合わせは無限にあるからです。

◆プロジェクト成功のために

―地方自治体の担当者とは、どのようにコミュニケーションを図っていますか

自治体からプロジェクションマッピングやナイトイベントに関するヒアリング調査は頻繁にあります。その対応は私が担当していますが、最終的に当社が受注する、しないにかかわらず、問い合わせの数に対して、実際にはイベント開催まで至っていないケースが多いです。

―問い合わせるということは興味があるということですよね。実現するにあたり高いハードルがあるのでしょうか

実現するときは必ず、その担当者の熱量が高く、前のめりです。ナイトイベントを開催し市民に喜んでもらいたい、シティセールスにつながるから頑張ろう、全国的な認知度向上のためにチャレンジしよう。そのような意思が電話口からも伝わってきます。

私は問い合わせがあった段階で、開催する上での懸念点や私なりのノウハウを話すようにしています。例えば、地元警察に伝えるタイミングは大切ですよ、というアドバイスや起こり得るリスクなど。熱量の高い担当者はそのような話も真剣に聞いてくれる。それだけ、お城のプロジェクションマッピングイベントは、その担当者の強い思いがないと実現しないプロジェクトなのです。

(文=木下慧輔)