今年6月、夢メッセみやぎ(みやぎ産業交流センター)の新理事長に千葉隆政氏が就任した。本記事では、震災とコロナ禍を乗り越え、地域とMICE業界へのさらなる貢献を目指す施設の未来戦略を聞いた。
東日本大震災とコロナ禍を乗り越えた今
―理事長ご就任おめでとうございます。これまでのご経歴と夢メッセみやぎとの関わりを教えてください
私は38年間、宮城県の職員として勤務し、今年の3月まで経済商工観光部長を務めていました。これまで産業振興や政策の企画・調整を担う部署での経験が長く、職員の中でも珍しいケースでした。この経歴から、実は理事長就任前から夢メッセみやぎとは関係が深かったのです。2010年度からは海外ビジネス支援室長として、夢メッセみやぎと隣にある仙台港国際ビジネスサポートセンター(現在の「夢メッセみやぎ西館」)の担当でした。2011年に発生した東日本大震災では、当時の財団理事長と連絡を取り続け、500人以上の来場者の安否確認などを一晩中行っていました。
またコロナ禍においても夢メッセみやぎの支援を担当しており、1995年の開館以来、夢メッセみやぎの二つの大きな危機の時に私が携わったことから、その縁を強く感じています。
―震災を経験してから長い道のりを経て、夢メッセみやぎは現在どのような状況にありますか
東日本大震災を経験した後、施設の改善が行われ、現状としては、災害に強く、使いやすい施設として回復しています。しかし、コロナ禍と原発の処理水問題により、中国と香港への輸出が制限されているため、宮城県はもとより、東北地方全体が大きな影響を受けています。特に、水産加工業の販路拡大は今後の課題と考えています。先日、夢メッセみやぎで水産加工品の新商品展示会が行われた際、全国から多くのバイヤーが集まりました。食や防災など夢メッセみやぎで行われる地元宮城の特性を踏まえた展示会は、東北エリアだけでなく、全国からの参加が見込めると期待しています。
未活用のポテンシャルと次なるステップ
―就任して3ヶ月が経過した今、夢メッセみやぎについてどのように認識していますか
夢メッセみやぎは仙台近郊に位置しており、大規模な駐車場を有するだけでなく、仙台東部道路の2つのインターチェンジも近くにあるという点が強みです。東北は車社会なので、この施設は東北全体でビジネスを展開するにあたり有利であると考えています。
しかし、この施設の利便性はまだ広く知られていないと感じています。東京から仙台までは新幹線で1時間半というアクセスの良さについては、ビジネスパーソンならば一般的に知られていますが、仙台空港からの多様な航空路線については意外と知られていないようです。例えば、仙台空港からは大阪、札幌へ1日に10便以上が運行されています。さらに国際便も、台湾・台北へは週17便、韓国・ソウルへは週3便、加えて北京・大連便も運行されており、今後も上海便の再開やソウル便の増便が予定されています。このような航空路線の充実度も含め、仙台が国内や東アジアの主要都市とダイレクトにつながっているというメリットをもっと積極的にアピールしていく必要性を感じました。
―全国規模や国際的な展示会も夢メッセみやぎで開催することも可能ということですね。逆に課題感を持っていることはありますか
施設の機能と賑わいは回復してきているものの、利用率はまだ理想的なレベルには達していません。この点に関しては、地元の認知度向上や施設の使い勝手を強調するPR活動を積極的に行っています。さらに、仙台観光国際協会主催のMICE誘致キャラバンに参加するなど、多角的なアプローチを用いて施設の魅力を高める取組みを行っています。
―施設運営だけでなく、主催事業も手掛けられています
我々が主催する「全国やきものフェアinみやぎ」は好評を博しており、来場者数も増加しています。海外バイヤーの参加もありました。しかし、来場者が多い日には駐車場の混雑が問題となっています。この課題に対する解決策が必要です。
また、今年11月8日には「ビジネスマッチ東北2023」を開催予定で、「情報・IT」「環境・くらし」「電気・機械」「ニュービジネス」「健康・福祉・スポーツ」「学術機関」「観光」「食と農」「企画・グループ出展」「ソリューションビジネス」という10の異なる業界で会場を構成しています。このイベントでは、地元東北の企業はもちろん、北海道や四国からも出展者が参加しています。
夢メッセみやぎの新たな挑戦と未来戦略
―今後の展望を教えてください
夢メッセみやぎのソフト面をより充実させ、価値のある施設にしていくのは指定管理者である我々の役目であり、さらに改善の余地は実はまだたくさんあると考えています。現在、3つの取組みを進めています。
まず1点目は「広告パッケージの提案」。指定管理の共同事業体にはマスコミも参加しているため、施設を利用する主催者に対してコマーシャルなどの広告手段を効率よく提供できるのではないかと構想しています。
2点目は「公共交通の活用」。大型イベント時に駐車場が満車になる可能性があり、また大規模なイベントを誘致するには公共交通機関の利用が重要です。大規模イベント開催時の現存のバス路線の増発についても、バス事業者と検討を進めています。
3点目は「多機能性の強化」。施設は展示会が基本型ですが、プロレスや音楽イベントなども開催されています。そのため、展示場以外の用途での利用も推進しています。地域の事業者と協力して、多様なイベントを誘致する戦略も構築していきたいと考えています。
これからの時代は、従来の運営手法だけでは施設の存続が難しく、多角的なアプローチとステークホルダーとの強力な連携が必要であると考えています。これらの取組みを通じて、施設の価値を高め、利用率を向上させることが目標です。 抱える課題や危機感を全員で共有し、アイデアを出し合えるような組織を目指しています。夢メッセみやぎが地域、さらには全国、世界での認知度を高められるよう、チーム一丸となって邁進していきます。