【レポート】“リアリティ”に触れる「HAKUTEN OPEN STUDIO 2023」

展示会やイベントの企画・デザイン・制作を行う博展は2023年12月13日から16日までの4日間、2020年7月1日にオープンした東京・江東区辰巳の新制作スタジオHAKUTEN T-BASEで、同社の2023年の実績や普段は表にでない実験などを披露する「HAKUTEN OPEN STUDIO 2023」を開催した。その模様をレポートする。

HAKUTEN OPEN STUDIO 2023

 

オープニングセッション

2022年に続き2回目となる今年の展示テーマは“リアリティ”。初日のオープニングセッションには同社でプランナーを務める真崎大輔氏とクリエイティブディレクターを務める中里洋介氏が登壇した。

真崎大輔氏(左)と中里洋介氏(右)

中里氏はリアリティというテーマに対し「コロナ禍ではテクノロジーの進化によって遠くの人とつながることが可能になった。それによってリアルとバーチャルの境目はより少なくなったが、重要なのは自分が現実味を感じられるかどうかだ。僕らは体験を創るのが仕事だが、リアルな空間というより、リアリティのある体験を創るのが大事だと思う」と語った。

真崎氏は「リアルが物理的な現実であるのに対し、リアリティはもっと感覚的で、経験によって生みされるものだ」として、例えバーチャルであってもリアリティのある体験を生み出すことは可能だと話した。

なお、トークセッションのステージは会場中央に位置しており、そこには展示シンボルが設置されていた。キャンプファイヤーのポピュラーな組み方である「井桁型(いげたがた)」を彷彿とさせるシンボルはAIの考えたデザインを基に、博展がブラッシュアップし組み立てたものだ。

 

展示

展示エリアは4つに区切られており、入口の「2023年のポートフォリオ」から反時計回りで「テクノロジーとリアリティ」、「ローカリティとリアリティ」、「サステナビリティとリアリティ」と続いた。

「2023年のポートフォリオ」エリアでひと際目を引いたのが、銀座資生堂パーラー本店のクリスマスショーウィンドウで使用された和傘モチーフだ。リサーチにおいて竹骨と飾り糸に着目し、本来傘の内側にあり使用者にしか見えないそれらをあえて露出。それにより、そこに在る美の探究、新たな美の定義に取り組む資生堂の企業姿勢を表現した。

和傘モチーフ

「テクノロジーとリアリティ」エリアではテクノロジーを用いたさまざまな実験的な試みが紹介されていた。「新触感提示のトライアル」では、下から手を差し込める複数の箱を用意。人が未知の触感に出会った時の反応を検証した。「ステッピング・コミュニケーション」では、演奏を通じモーターと観測者がコミュニケーションを図り、友達になれるかというユニークな試みを行った。ほかにもGoogleカレンダーの予定を音として抽出しハーモニーを生み出すデバイスや、水が物体に落ちた時に生じる周波数の比較検証、テクノロジーを用いた和紙の可能性追求、AIを活用した野菜人間への変身体験などを展示した。

新触感提示のトライアル
ステッピング・コミュニケーション
水が物体に落ちた時に生じる周波数の比較検証

「ローカリティとリアリティ」エリアでは、博展がかえつ有明中・高等学校とともに神輿を作ることで有明・東雲地域に新たな文化を生み出すプロジェクトや、辰巳地域のフィールドワークからアイデンティティを発掘する「辰巳・歩考学会」プロジェクト、東京建物が閉店した新潟三越跡地を拠点に、人と人が出会い前向きに古町を作るためのプロジェクト「み〜つ」などの取組みについて展示した。

かえつ有明中・高等学校と作った神輿
「辰巳・歩考学会」プロジェクト
プロジェクト「み〜つ」

「サステナビリティとリアリティ」エリアで衝撃的だったのが、ロフトワーク MTRL(マテリアル)との共同プロジェクト「くらり座」。まだ素材として活用されていないものにフォーカスするといった内容だが、その第一弾として選ばれたのは何と人毛だ。「ゴミ」や「汚い」といったイメージを持つこの素材を活用すべく、脱色・染色してみたり、樹脂により硬化してみたりとさまざまな手法が試されていた。また、展示会で多用されているシステム部材を創造的な方法で活用することを目指す「オクタ魔改造」コーナーでは、オクタノルムを使った椅子や机などが展示されていた。

人毛を脱色・染色したもの
人毛を樹脂で硬化させたもの
オクタノルムを使った椅子と机

 

イベントを終えて

一通りの展示を回り会場を後にしようとした帰り際、お土産に芋けんぴをいただいた。こちらはイベントで使わなくなったものを配布することでフードロス削減に努めているとのことで、こんなところでも博展のSDGsに対する意識の高さを感じることができた。

芋けんぴをお土産に配ることでフードロスを削減

今回のHAKUTEN OPEN STUDIOの展示は、すでに世の中で事業化されているものもあれば、まだ実験段階で事業化の目途が立っていないものまで多種多様で、非常に好奇心を刺激される内容だった。

時に「えっ!噓でしょ!?」と言いたくなるような突飛な発想が10年、20年、あるいはさらに先の未来ではスタンダードなものになっていることもあるのかもしれない。そんなワクワク感と可能性を感じさせるイベントだったと思う。