【レポート】東京ドームが「enXross AWARD/EXHIBITION」初開催

東京ドームは2023年12月19日にブロックチェーンをテーマにしたビジネスイベント「enXross AWARD/EXHIBITION(エンクロス・アワード/エキシビション)」を東京ドームホテルで初開催した。

同イベントは大学・高専に所属する学生をはじめ、スタートアップ企業に所属する社会人・経営者を中心にアイデアを募集し、国内外の最先端の知識と才能を集結させ、エンターテインメントの未来を切り開くプロジェクトの創出、そして参加者の起業家精神の支援・育成を目的としたもの。

当日はブロックチェーンやWeb3.0といった技術や、それに伴うエンターテインメントの発展に興味を持つ多くのビジネス客が参加しイベントを盛り上げた。なお、イベントの最後には第2回を2024年に開催予定であることも発表された。

オープニング

オープニングでは東京ドーム会長CEOの北原義一氏が主催者を代表して挨拶。「私は独占や過占から幸せな社会は築けないと確信している。今の現代社会は極端な経済格差を生んでおり、Web2.0が独占モノポリーゲームを誘発したと言っても過言ではない。そのアンチテーゼとして生まれたのがWeb3.0ではないだろうか」と語り、これからの時代はWeb3.0に基づいた超民主的な意思決定メカニズムが求められるとした。

また、「その超民主的な意思決定のメカニズムに最もフィットするのが、東京ドームが生業としているエンターテインメントだ。東京ドームシティを一つの経済圏として捉え、クリプトエコノミー(トークンエコノミー)へと変えてみたい」と発言。さらに「私たちは東京ドームシティを訪れる年間4000万人のお客様に笑顔や感動の涙を提供し続けてきたが、これからは地球人口の80億人を対象に東京ドームのあらゆるエンターテインメントサービスを国境を超え提供していきたいと考えている」と語り、それを実現可能にするのがエンターテインメントとWeb3.0の融合によるサービスであると主張した。

特別講演

続いて、デジタルガレージ共同創業者 取締役 Chief Architect / 千葉工業大学 学長の伊藤穣一氏による特別講演が行われた。

伊藤氏は「技術は技術、クリエイティブはクリエイティブと切り離すのではなく、クリエイティブな人が直接技術を使わないと、世の中が技術によってどう変わるのか中々分からない」と前置きした上で、「ブロックチェーンが凄いのは誰が誰に貸したとか、約束したとかを、スマートコントラクトで誰でも見れるものとして書ける点だ。ただ、スマートコントラクトを書くのは意外に難しく、バグのリスクもある。そこでAIが活躍するのだが、最近流行の大規模言語モデルだと嘘をついたり、メモリーが少なかったりとコントロールが難しい。そこで不確実性コンピューティングによる、もう少し構造的なAIを使うと、良いコンビネーションが生まれる」と語った。

また、「今はスマートコントラクトにバグがあっても直せないが、不確実性コンピューティングであれば流れを汲んだリスクマネジメントが可能だ。プログラムによって不安定なものを安定させれば、今の株式のような信用性や透明性のある社会基盤を作れるだろう」と述べた。

さらに、「AIに人間の価値観は理解できないので、人間が良い社会の方向に導くことが重要だ。技術とは自分たちにジェットパックを付けるようなもので、良い方向を向いていればますます加速する。ビジネスモデルによっては短期的かつ競争的な面を後押ししてしまうシステムもできてしまいかねないので、かつて日本に根付いていた“”わび” “さび”のような文化を世界に根付かせていくことが求められる」と主張した。

enXross AWARD

当日はメインステージでビジネスアイデアコンテストの最終プレゼンテーションが行われ、ファイナリスト6組が登壇した。8分間の持ち時間と4分間の質疑応答による12分という限られた時間の中で、それぞれが創意工夫を凝らしたプレゼンを行った。その一部を紹介する。

最優秀賞(賞金500万円)/ INFORICH賞 / WORK STYLING賞
【待ち時間が価値になるweb3時代の整理券 「machiwabi(マチワビ)」】
MeTown  田中一弘氏

大規模イベントでの待ち時間を価値に変える整理券システム。イベント申し込み後にNFT化された整理券を手に入れ、当日まで限定ファンコミュニティで「マチワビトークン」を獲得できるクエストに参加できる。当日は待ち時間中にもトークンが蓄積し、クイズなどで退屈も解消する。帰り道で電車を待つ間、それまに貯めたトークンでNFTのデジタル記念品をゲットするといった仕組み。ファン同士の交流の場に加え、ランキング戦も実装したいと語った。

優秀賞(賞金300万円)
【OraCulus – ELEVATING PHYSICAL EXPERIENCE THROUGH DIGITAL INNOVATION -】
NFT GO  Dan Zajac氏

東京ドームのユーザー体験向上させることを目的とした、軽量なオンチェーン報酬プログラムとNFTエクスペリエンスマーケットプレイスの導入を提案。東京ドームに来た人がイベントや商業施設の利用などを通じて東京ドームコイン($DOME)を獲得。$DOMEはVIP体験やチケットの早期アクセス、家族予約の割引、または東京ドームのマスコットNFTのアップグレードに使用でき、家族やグループ、スポーツやアートイベントのファンなど多様な層をターゲットにしている。これにより再訪問のきっかけを提供する。

東京ドーム特別賞
【Passport Protocol】
0xPass  Santhoshkrishnachaitanya Chelikavada氏

Passport Protocolは分散型のマルチパーティ計算(MPC)に基づくキー管理ネットワーク。従来のMPC方式と異なり、キーシェアをネットワークのノード間でのみ分割するため、ユーザーはシードフレーズやリカバリーシェアの扱いについて心配する必要がなく、開発者は認証やリカバリールールを自由に設定できる。東京ドームはPassportを利用し、ウォレットの取り扱いが不慣れな顧客や来場者のためにウォレットを提供し、ブロックチェーンアプリケーションとのシームレスな経験を提供することで顧客維持を促進できる。

enXross EXHIBITION

AWARDや行われているステージ後方では、パートナーや出展企業による展示が行われた。

ソフトバンクは法人向けメタバースサービス「ZEPETO(ゼペット)」を出展。「ワールド」と呼ばれるメタバース空間でユーザ同士の交流ができたり、アバターのカスタマイズ、写真や動画投稿等ができるSNSとなっており、若年層が多く交流するプラットフォーム上で、自社の世界観のワールドやアイテムに触れてもらうことで認知拡大やブランドのエンゲージメント拡大に繋げることができる。ZEPETO内でキャンペーンやイベントを実施することも可能なため、集客マーケティングにも活用されている。

パナソニックグループは様々なタッチポイント上で上質な体験価値の創出をサポートする「次世代観光体験空間創出・観光DXソリューション」を出展。照明・映像・音声で空間の魅力を演出する「YOI-en」や、アバターによるAI対話とオペレーターによるリモート対話のハイブリッドサービスで接客・受付業務の改善や施設のインバウンド対応をサポートする「TAZUNE」、チケッティングシステムと連動した「顔認証入場」などを紹介した。

竹中工務店はデジタルツインによる複合災害シミュレーション「maXim(マキシム)」を展示。建物のBIMデータを活用し、各災害事象の解析結果を3次元モデル内に時間経過に沿って統合化。それをドーム型スクリーンやVRゴーグル等のVRデバイスで可視化するもの。ブースでは工学的検証による浸水シミュレーションをパソコンモニターに表示した。

Blue Labとみずほ銀行はVTuberをAI化することで、ファンがいつでも推し活を実現できるサービス「Fab Star(ファブスター)」を展示。推しのVTuber AIとの日常的な会話を通じつながりを深め、VTuberの魅力をより多角的に体験できる「リアルタイム推し活」、推しVTuber AIが持つ知識や趣味を反映したオススメ情報に合わせて知識や体験を共有し、VTuberを身近に感じられる「推しの知識に基づくオススメ情報提供」などを備えている。テナントでサービスを活用することで、利用者が来たくなる店舗づくりをサポートする。