【インタビュー】
「夢を見る、売る、買う」 空間を創る【山元】

大手百貨店やイベント会場、商業施設などへの什器レンタルを手掛ける山元は2023年8月に創業60周年を迎えた。

近年はM&Aと事業拡大にも取り組んでおり、レンタルサービスのみならず装飾や設計などを含めた包括的な空間提案へと事業の幅を広げさらなる成長を目指している。

今回は代表取締役山元彩容子氏に話を聞いた。

(※本記事は新聞「見本市展示会通信」(2023年10月15日号)に掲載された内容です)

ディスプレイや改装も含めた包括的な空間を提案

 
―新型コロナウイルス感染症が5類感染症に変更されてから数カ月、変化は感じますか

コロナが始まってから数年間、人が集まるイベントや祭りは減少しましたが、最近は弊社の仕事量も元の状態に戻りつつあります。百貨店を始めとする様々な場でイベントが再開されてきていますね。

―近年、取り組んでいるM&Aと事業拡大について

実は、特に積極的なM&A戦略を採っているというわけではないんです。アートクリエイティブスタジオとは以前から協力会社として一緒に仕事をしていました。ある日、先方の社長と話す機会があり、もっと多くのことに挑戦したいという思いを知りました。

今、彼らはラグジュアリーブランドとの取引が多く、業績も右肩上がりです。我々はお互いに一緒になることで多くのメリットがあると感じていました。アートクリエイティブスタジオはソフト面、つまりデザインや装飾に長けており、山元はレンタル什器に特化しているためハード面で強く、互いの強みを活かすことでより強固で良い形が生まれるのではとなったんですね。

ウエタニは、後継者問題でM&Aの買い手企業を探しているという紹介を受けたことがきっかけでした。彼らは大阪に本拠地を置く創業100年以上の家具製造業者で、ラグジュアリーブランドの店舗内装や、駅ビルといった大きなプロジェクトで強みを持っています。

山元も内装事業に興味を持っていました。特に関西地域での拡大も考えていた時期で、内装は人手不足も問題となっていたため、M&Aのタイミングとして非常に良かったんです。

コスモ企画とは、百貨店の食品売り場などで長年一緒に仕事をしてきました。大規模な食品イベントでは両社とも必要なときにお互いの資源を活用し、助け合ってきました。なぜ什器レンタルという近い業種でM&Aをするのか、疑問に感じられる方もいらっしゃるかもしれません。たしかに我々も食品の見本市や各種イベントで什器を提供しているのですが、コスモ企画は食品会社やスーパーマーケット、食品関係のフェスなど、食に関してより多様な案件まで細かく、多数をカバーしています。

得意分野が違うため重なる部分も少なく、また山元は食品関連だけでなく他の什器も持っているので、それがコスモ企画の取引先で活かされることも期待できます。その高い営業力も評価しています。

我々は基本的にM&Aを行う場合も、流通業界からはみ出るつもりはありません。我々の目指すビジョンは、流通業界で「山元がいるから安心」と言われるような立ち位置を確立することです。

今回ご縁があって3社にグループへ入ってもらったのですが、全て同じ業界内で展開しています。彼らがこれから先、さらに進化して大きくなるにあたって、「山元の力が一緒になるともっとこんなことができるよね」と夢を持ってお話をいただいた感じなんですよね。

各社の連携はすでにスタートしています。例えば、山元のレンタル什器を使っているクライアントが関西や九州方面のショップの内装変更を考えている際はウエタニにお願いしたり、ラグジュアリーブランドの仕事はアートクリエイティブスタジオが長けているので、そちらにお願いしたり、各案件で山元のレンタル什器のオプションをお客様に提案することもあります。

グループ内での協力が進んでいくことで各社の持っている強みを活かしつつ、必要なものを一緒にご提案でき、より多くのお仕事ができるようになっています。お互いに強みや足りないところをどんどん話して、じゃあこれをアートクリエイティブでやって山元としてはこっちでサポートしますよとか、これはウエタニが得意な分野だからバトンタッチして山元はこっち側でフォローしますよとか、そういうことも今やり始めています。

山元グループの強みとは

 
―環境問題への取り組みについてお聞かせください

社会のSDGsや環境問題に対する関心の高まりを受けて去年、ISO認証を取得しました。認証がないと外資系の得意先やラグジュアリーブランドと今後取引が難しくなる可能性もありました。

元々レンタル什器はその性質上、SDGsにも貢献しています。使用が終わった什器はセンターに戻り、必要な修理や清掃が行われ、再び出荷される。このサイクルによって無駄な廃棄が防がれ、持続可能な利用が実現しています。

間伐材を活用した什器や、衣料品素材を再利用した什器なども社内で製作しているんですよ。

―山元の強みや顧客に評価されている点は何だと思われますか

山元はレンタル什器の業界では最も歴史ある会社です。そのため、保有している什器の種類や台数も一番多いんです。自社で全てがまかなえるという点は弊社の特長です。例えば、一軒の百貨店を一社で手がけられるのは、おそらく我々しかいないと思います。

多種多様なレンタルニーズに応えられるのも、弊社ならではの強みです。グループ全体で装飾や造作も手がけられますし、内装関係も対応可能です。

また、自社でトラックも運転し、社内で製作した機動力の高い什器を使用していますので搬入搬出もスピーディで、お客様からも高い評価をいただいています。多くのベテランスタッフがおり、みな頼りにされています。倉庫の機械化、自動化も進んでいます。

「夢を見る、売る、買う」空間を創る

 
―今後の方針、ビジョンについてお聞かせください

我々は「夢を見る、売る、買う」空間を創ることをビジョンに掲げています。

たとえば、高額な車や時計を「買う」ためにお金を一生懸命貯めるとき、目標に向かって努力を続けようやく手に入れたときに感じる達成感は、まさに夢を果たしたという感覚に近いです。あるいは絵画展などで芸術を「見る」ことで感性を育み、何か夢を見てもらえることもあるかもしれない。

我々の商品やサービスは、単なる物品以上の価値がある「夢を売る」ことにもつながるのではと考えています。

私が子供のころ、創業者である父はよく百貨店に連れて行ってくれました。当時の百貨店は、楽しいおもちゃ売り場や憧れのお子様ランチ、食料品売り場に行けばおいしそうなケーキがたくさん売っていて、母から「明日デパート行くよ」と言われると嬉しくなって、何を着て行こう何を買ってもらおうと、ワクワクドキドキする空間でした。

百貨店は今どんどん変化していますが、さっき話したような「夢」を買いに来られたりする方たちも結構多いのでないでしょうか。そういう空間づくりのお手伝いをさせて頂けることは、とてもありがたいと思います。

山元グループは流通業界という枠の中で多角的な事業を展開しており、日々、何ができるのか常に模索しています。

最終的な目標は、流通業界において山元グループが欠かせない存在になること。これは夢のような話かもしれませんが、そこまでしっかりと根を張り、自分たちのできることをやらせて頂きたいと考えています。

まだまだ自分たちでも見えていない可能性が多数あると思うので、勉強しながら様々なチャレンジをして、山元を必要としていただける、お客様に満足していただける空間づくりをこれからもずっと目指していきたいと思っています。