プリツカー賞と万国博覧会のパビリオン建築
建築界のノーベル賞と言われる「プリツカー賞」(Pritzker ArchitecturePrize)という栄誉ある賞がある。米国のハイアット・ホテルのオーナーであるプリツカー家が1979年に創設したもので、世界の優れた建築家に贈られる。現在までに贈呈された日本人建築家は、8名に上る。そのうち5名が万博のパビリオン建築に従事している。丹下健三氏は、70年大阪万博の会場基幹施設計画の責任者で、お祭り広場の設計を行った。安藤忠雄氏は、92年セビリャ万国博覧会の日本館を設計した3年後に受賞した。世界最大級の木造建築のパビリオンということで、大きな注目を集めた。日本館のプロジェクトは安藤氏の海外での初めてのプロジェクトでもあり、賞の選考の対象であった。坂茂氏は、2000年のハノーバー万国博覧会の日本館を設計した。紙でできたパビリオンで大きな話題になった。また大阪・関西万国博覧会でも民間のパビリオンである「Blue OceanDome」を設計することになっている。伊藤豊雄氏は、2000年ハノーバー万博のテーマパークのヘルス・ヒューチャー館を設計している。磯崎新氏は、丹下健三氏の下で1970年大阪万博のお祭り広場の諸装置の設計に従事した。このように、万博のパビリオン設計は建築家にとっても夢のある仕事で、世界に売り出す貴重な機会となるのである。
中止になった万博のケース
イタリアのローマの郊外にEURという町がある。これは、ムッソリーニが、1942年に「ローマ万国博覧会」を開催するために作ったモダンな建物の町である。EURとはまさにこの万博の頭文字をとったものである。第2次世界大戦の結果中止となった。
日本でも、同様に1940年、東京で「紀元2600年記念日本万国博覧会」が計画されたが、日中戦争の激化によって中止となった。比較的最近では、鈴木俊一東京都知事のイニシア
テイブで1996年に東京臨海副都心で、「世界都市博覧会」(BIE総会で決定された後に中止となった国際博覧会は、下記の3つである。この3つの博覧会は、決定後の早い時期に中止となったので、経済的損害は比較的少なかったものと思われる。
*1995年 ウイーン・ブダペスト国際博覧会:1989年のBIE総会で開催が決定されたが、1991年ウイーンで行われた住民投票で否定された結果、オーストリア政府は、1996年に中止を決定した。政権交代による財政保証が困難になったこともある。参加勧誘の訪れたミッ
ションと面談したことがある。
*2004年 セーヌ・サン・ドニ国際博覧会:1999年のBIE総会で承認されたが、政権交代があり、財政保証が困難になったため、中止となった。サンドニ地域は、移民が多く貧困地区であったので、地元は地域開発の契機になると期待されていた。サンドニ国際博覧会の幹部が来日した時には、ジェトロは、セミナーも開催した。
*2023年 ブエノスアイレス国際博覧会:2017年にBIE総会で開催が決定され、南米で最初の国際博覧会であったが、COVID-19、財政危機、政権交代等の理由で中止となった。
国際博覧会事務局(BIE)の財政基盤の強化に貢献した万博の生き字引、竹田一平さん
国際博覧会事務局(BIEは、国際オリンピック委員会(IOC)に比較し、参加国の賛助会費で成り立っていた組織なので決して裕福ではなかった。筆者がセビリャ万博に従事した時の直接の上司は、故竹田一平さんであった。「国際博覧会の生き字引」と言っても言い過ぎでない人物で、筑波の国際科学技術博覧会(1985年)、愛・地球博(2005年)、セビリャ万国博覧会(1992年)、ブリスベン国際レジャー博覧会(1988年)、スポケーン国際環境博覧会(1974年)、ノックスビル国際エネルギー博覧会(1982年)等の国際博覧会に直接従事した。その経験、実績、人脈によりBIEの事務局のみならず、世界中、とりわけ欧米の博覧会専門家から大いに敬意を払われていた。英語力も抜群で英文で契約書の文書も容易に作成する能力があった。サイマルインターナショナルの村松増美さんも竹田さんの英語力を称賛していた。
愛・地球博の誘致を成功に導くために、数年間にわたり愛知県から委託調査を受けていたこともあり、国際博覧会に係るあらゆる側面を調査した。国際博覧会事務局からの信頼も厚く、カナダ人の万博専門家のクロード・セルヴァン氏と博覧会関連の調査も請け負っていた。竹田一平氏さんが考えた国際博覧会事務局の財政基盤の安定のための秘策は、各国際博覧会の入場料の1%を徴収し、BIEの資金源とすることであった。その結果、確か2000年ハノーバー万博当たりから、1%を徴収するようになった。上海万博の来場者数は、7308万人であったので、いかにBIEが潤ったことが理解できよう。国際博覧会事務局の財政確立に寄与した日本人がいたことを忘れてはならない。