【主催者インタビュー】学生チームが都市開発のディベロッパーが直面している課題に取り組む【ULIハインズ・アジア太平洋学生競技会2024】

世界的な都市開発の提案コンペティション「ULIハインズ・アジア太平洋学生競技会2024」。2024年5月29日に、日本の早稲田大学が2年連続の優勝を果たした。

今年、テーマとなったのは東京の築地市場跡地だ。

「ミクストユース(住宅、商業施設、オフィス、教育施設等の複数の機能を採り入れた街づくりの手法)と公共交通指向型(TOD:Transit-Oriented Development)の視点を取り入れながら、築地市場跡地を活気のある場所へ変える」という課題が、アジア太平洋地域の7つの国(中国、インド、日本、シンガポール、韓国、フィリピン、ベトナム)計27の学生チームに与えられた。

なぜ日本に着目し、このイベントがAPAC地域の中でどのような役割を果たすことを期待しているのか、審査団員のメンバーでハインズ日本代表ジョン田中氏に話を聞いた。

ULIハインズ学生競技会
ULI(アーバン・ランド・インスティテュート)と大手グローバル不動産投資運用会社であるHines(ハインズ)による、都市開発と再開発に対する若者の関心を高めるための教育的な取り組みで、22年前にアメリカで始まり、アジア太平洋地域での開催は今年で2回目となる。

――提案の主題は築地市場跡地の変貌でした。なぜこれを課題に選んだのですか?

東京都が再開発の提案を、実際に募集していたからです。我々は都が募集の中で示していた事業方針や重視している項目を使って、学生チームに提案してもらおうと考えました。

今回興味深かった点は、私たちが今年の優勝チームを決定したすぐ後に、東京都と三井不動産などの開発コンソーシアムが、実際の築地市場跡地の再開発計画を発表したことです。

学生たちは自分たちの提案と実際の再開発計画を比較して、新しい観点から分析することが出来ました。

――学生のプレゼンテーションを見て、若者たちが都市の未来に対して持つ態度や視点について、どう考えましたか?

日本以外の様々なアジアの国の若い方たちからの提案を頂き、海外からの日本に対する思いや、「こういうふうに日本が発展してほしい」という期待を感じることが出来ました。

日本に興味を持って取り組んで下さり、アニメやeスポーツといった視点や、逆に日本国内ではあまり考えないような発想もあって、さすがだなと思いました。

また、やはりサステナビリティというテーマは、皆さん大事な項目として考えていました。

EVを使うとか自動運転のタクシーを使うとか、未来を見据えてモビリティを考えていることも非常に面白かったですし、築地は有名な観光地でもあるので観光ビジネスを取り入れるなど、よりフレッシュな観点で学生さんたちが提案してくださったのが非常に良かったなと思いますね。

あと、チーム構成ですが、優勝チームは女性、男性、日本人、台湾人、韓国人、大学院の学生もいれば学部生の方もいて、多様性が尊重されていました。

他のチームも、都市計画の専門の人だけではなく、違う学問で勉強している学生さんと一緒に取り組むなど、より幅広い観点で考えて頂けたのは非常に良かったと思います。

――全体的に、応募作品は予想通りのものでしたか?

そうですね。今年は去年よりも多い27の学生チームから提案書を頂きました。

――審査員は提案を評価するにあたり、何を重視しましたか?

やはりコンセプトは重要ですね。バラバラの施策を一つ一つやっていくのでなく、大きなコンセプトを持って考えるというのは非常に難しいものです。

――優勝したチーム・カプリコの開発計画の、どの特徴が他のファイナリストと比べて際立っていましたか?

優勝チームの提案“The BioChem Frontier”( 生化学フロンティア)はエコシステムを考えられていました。

住民の役に立つためにコミュニティとの連携を考えたり、コンベンションセンターを使ったバイオサイエンスの発表会・説明会、あるいはカンファレンスなどの集まりを企画するなど、コンセプトが非常によく統合されたものとなっていました。

近隣の国立がん研究センター中央病院との連携、シニアの住宅開発、新薬の開発など、イノベーションと実際の住民とのつながりをよく考えてきたと、私は評価しました。

また、学生チームには審査員の前で20分くらいのプレゼンをして頂くのですが、説明や我々の質問に対する回答もしっかりできていました。

――このコンペティションが、APAC地域における将来の不動産業界のすがた、ひいては構築環境(built environment)に、どのような役割を果たすことを期待していますか?

自分の勉強してきたことを実際にどうやって実現するか、短い期間の中で深く考える、そのプロセスが非常に大事だと思います。

また、提案ではもちろんコンセプトも重要なのですが、年ごとのリターンですとかファイナンスですとか、ビジネスの面もやはり非常に大切なポイントとなります。

たとえばサステナブルな開発は、やはり少しコストがかかる。それをどうやって実現するのか?といった点です。

このコンペティションでは、我々が現実にディベロッパーとして直面している様々な課題を体験して頂くことができると思います。