「ツーリズムEXPOジャパン」 を
より一層充実・活性化するためにはどうすれば良いか?
1.観光振興は過渡期にあり、深刻な問題を抱えていることを認識すること
前編でも少し触れたが、現在海外からのインバウンドの状況は、オーバーツーリズムの問題はあるにしてもまずまず順調である。しかし、深刻な問題は、日本人の旅行需要、旅行意欲の低迷である。日本経済新聞の10月14日付けのNikkei Asiaのコーナーでも「Japan, a tourism hot spot, is losing its passion for travel(旅への情熱を失った観光ブームの日本)」と報じており、「日本人の海外渡航者はコロナ禍前の6割程度、宿泊を伴う国内旅行も2023年秋から前年を下回っている」という。 宿泊を伴う日本人の国内旅行が減少しているのは問題である。観光庁の調べによると23年12月から24年8月まで、一貫して前年割れという。物価の上昇や訪日外国人の急増による宿泊価格の上昇の結果と言えよう。加えて、日本人の所得の相対的低下現象やコロナ禍の3カ年の結果、外出や旅行することが億劫になっていることも指摘できる。 インバウンドであれアウトバウンドであれ、観光振興は、政府や民間が一致協力して行うことが重要であるが、日本人の旅離れは、日本人の知的好奇心の減少を意味し、延いては、日本のダイナミズムの停滞に繋がることになることを、政府、政府関係機関、旅行業の団体、観光に従事するすべての企業は深刻にとらえる必要がある。
2.アウトバウンドもインバウンドと同様、重視すること
インバウンドは、コロナによる影響もあったが、おおむね好調に推移している。日本政府観光局の統計によれば、2024年9月の訪日外国人推計値は、287万2200人で、8か月連続で過去最高値を記録した。1~9月の累計でも2488万200人となっている。コロナ前に過去最高値を記録した19年累計の数字は、3188万2049人であったので、24年はこの数字を大きく上回ることが予想される。
2003年に当時の小泉首相のイニシアテイブで、観光立国を目指す構想が施政方針演説で示され、2010年には訪日外国人観光客を1000万人にするという内容であった。Meeting、Incentive、Convention、Exhibitionの頭文字をとったMICEという表現もクローズアップされた。また新型コロナウイルスによって大きな影響を被った国内観光産業の振興のために、20年3月にはGotoトラベル・キャンペーンが実施された。日本政府としては、インバウンド振興については、十分な措置を講じているので、都道府県や観光・旅行関連の出展者の勧誘等については、今後も拡大・充実していくものとみられる。
一方、問題はアウトバウンドである。日本人による海外旅行は低調である。コロナ前の19年には、出国日本人数は、2008万669人であった。24年1月~9月の数字を見ると949万6500人で、24年累計では、大きく減少することが予想される。日本のパスポート保有者は6人に1人と先進国では最低の水準と言われている。22年の日本人の有効旅券数は2091万5143冊で、日本の人口に占める割合は17・1%である。19年の23・8%から、20年218%、21年19・2%と減少し続けてきた。 また観光庁が23年2月に、19歳から25歳のZ世代400名に対して行った「海外旅行に関する意識調査」(ツアーセイフティネット調べ)によると、全体の57・3%が「行きたいとは思わない」、23・0%が「行きたいが社会情勢の不安で行けない」、19・7%が「行きたい」と回答した。若者の海外旅行離れは危機的な状況にある。(独)日本学生支援機構の「日本人学生留学状況調査」によると、大学等が把握している日本人学生の海外留学状況は、2022(令和4)年度で5万8162人(対前年度比4万7163人(428・8%)増)だった。回復しつつあるというものの、コロナ禍前の半数程度にとどまっているとのことである。
日本人の海外旅行の増加に障害となっているのは、第1に、円安の影響、第2に、海外の治安の問題等もあり、日本人の外国旅行に対する関心の低下が挙げられる。日本人の海外旅行が低迷すると、ツーリズムEXPOジャパンに出展に関心のある諸外国のパビリオン出展意欲が俄然減少するし、海外の旅行関連の会社からの出展が減少することになる。外国パビリオンの出展が減少すると、展示会の魅力が失われ、商談を目指すビジターや一般来場者の数が減少することになり、悪循環現象に陥る。
それにしても内向き傾向にある日本人が外国に出かけないとなると、ますます内向きになり、世界が向かいつつあるグローバリゼーションに逆行することになる。これは、日本の旅行業界にとって、大きな問題であるし、中長期的にみて、日本の経済発展にとっても厳しい阻害要因になる。それゆえ、インバウンドとともにアウトバウンドの推進は、官民挙げて取り組まなければならない課題であることを共通の認識として持つ必要がある。アウトバウンドを推進しないと、やや誇張的ではあるが、国の存亡に関わるという危機意識をもって、様々な振興策を策定することを期待したい。そのために、観光庁や日本政府観光局は、日本人の海外旅行・国内旅行を振興させるにはどうすれば良いかを考えるための審議会や研究会を立ち上げて真剣に対策を練る必要があろう。
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