「ツーリズムEXPOジャパン」展をより一層充実させるには② 寄稿・桜井 悌司(元ジェトロ監事・展示事業部長)

3.「ツーリズムEXPOジャパン」の発展計画・発展戦略を策定すること
まず最初に行うべきことは、開催規模で文字通りの「世界最大級の観光展」に発展させることである。一般的に、展示会は規模が大きければ大きいほど主催者に収益をもたらすことになっている。収益が増大すれば、主催者の企画による魅力的な様々なイベント・催事が可能となる。規模が拡大すると展示会の内容もより充実・活性化するし、良質のビジターによる商談や一般来場者も増加する。
2024年の東京でのEXPOの規模は、東京ビッグサイト1~7ホール(日本政府観光局主催の「VISIT JAPANトラベル&MICEマート」を含む)で、総展示面積は、6万3060平米であった。これを例えば、5年間で、徐々に拡大していくために最大限の努力を払うことである。次回の東京開催では、東8ホールの3080平米を加えて、6万6140平米に拡大し、その後は徐々に西館1~4ホールとアトリウム(3万1280㎡)を加えた9万7420㎡までもっていく。そして、将来像として、南館1~4ホール(2万㎡)を加え、合計11万7420平米(東京ビッグサイト全館使用)までの規模を拡大すれば、「世界最大級の観光展」と言ってもそれほど誇張ではなくなるであろう。
こういう話をすると、EXPO関係者は、とても無理だとか、日本人の内外旅行が停滞する中で海外からの出展がますます困難になっているというような意見が出てくることが予想される。しかし、このままでは、規模の拡大はおろか縮小につながり、EXPOの魅力は失われてしまう。今は、不確実な時代であり、やってみないとわからないし、攻撃は最大の防御であることを忘れてはいけない。
計画の策定に当たっては、主催3団体が、過去の経緯や役割分担などをいったん脇に置き、3団体一体になり、原点に戻って議論・検討することが望ましいと言える。
おそらく、現状では、アウトバウンドは、日本旅行業協会が、インバウンドは、日本観光振興協会と日本政府観光局が担っているものと思われる。今後は、アウトバウンドの強化と国内旅行の振興が喫緊の課題となろう。
この計画を策定・実行するにあたり、最初に考えなければならないのは、出展者の誘致である。現在の展示会でも大まかに分けると「外国パビリオン」、「国内パビリオン」、「旅行会社・航空・運輸・観光関連・ホテル・旅館・宿泊施設等々」の3つのコーナーに分かれる。
外国パビリオンについては、過去数回の出展状況をチェックするとともに、日本人の旅行先として、人気のある国・地域からの出展状況を調査し、出展誘致計画を立てることが必要である。アジア諸国の参加は比較的充実しているが、欧米諸国の場合、ハワイ州、イタリア、スペイン、ギリシャ、ブルガリアを除けば、プレゼンスは低い。アラブ諸国、アフリカ、ラテンアメリカの出展拡大の余地は結構存在する。すでに毎回出展している国については、出展規模の拡大を勧めることも考えられる。  よく外国の展示会で行われているゲスト・カントリー制を導入し、毎回、特定の国の出展を推進するという方法もある。また日本政府観光局が海外での観光展にジャパンパビリオンとして参加する場合やジェトロが海外見本市に参加する機会を利用してこのEXPOの広報・誘致活動をさらに一層強化することも必要である。また海外で同様の観光展示会主催者とのさらなる連携・相互協力、外国政府の旅行振興機関や民間団体とのより一層の関係強化を図ることが重要である。  様々な展示会でマッチングが重視されているが、外国パビリオンと国内旅行会社との効果的なマッチングも積極的に行うことによって、外国の旅行会社にとって、出展が魅力あるものにすることも大切である。
国内パビリオンについては、現在各都道府県別になっているが、来場者の観点から見ると、九州、四国、中国、近畿、中部、北陸、関東、東北、北海道と明確なゾーン分けをし、その中で各県のプレゼンスを発揮してもらうほうが、見やすいし、商談会にも都合がよい。また、それによって各ゾーン内のコミュニケーションや連帯感も強化できるし、ゾーン間の競争も期待できる。現在の出展規模をさらに拡大することを強く説得することが重要である。前述のミラノのBITでは、シチリア州が広大なパビリオンを構えていたことを思い出す。また地震・洪水等の被災地のパビリオン支援のための方策も強化することが望まれる。  その他のパビリオンのうち、大手旅行会社はおおむね出展しているが、中堅旅行会社にも出展勧誘したり、外国の航空会社にもっと声をかける必要がある。宿泊関係や温泉地の紹介コーナーもさらに充実させるべきである。また、ラグジュアリトラベルの分野にも出展勧誘できよう。一方、インバウンドでは、消費行動よりもアドベンチャートラベルや学びのツアーなど体験価値を重視する傾向になりつつあるが、その動きに対応した地域や企業のブースの出展も期待したい。

2024年開催のようす

4.出展者誘致戦略・戦術には、もっと官の積極的な協力も得ること
「ツーリズムEXPOジャパン」の後援団体を見ると、国土交通省、国土交通省観光庁、総務省、外務省、スポーツ庁、文化庁、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、環境省、東京都、東京観光財団、日本経済団体連合会、日本商工会議所、東京商工会議所といった官庁、民間団体がオールスター的に名を連ねている。日本では、大型イベントを組織する場合、このような組織委員会を作るのが通例で、極めて日本的やり方と言えよう。しかし、せっかく後援団体になったからには、何らかの協力が望まれる。主催者としても各後援団体に何を望むかを明確にすべきであろう。海外からの出展勧誘や展示会の広報の観点から言うと、外務省、日本貿易振興機構(JETRO)に加え、発展途上国に強力なネットワークを持つ国際協力機構(JICA)や日本語・文化の普及機関である国際交流基金の協力を得たほうは良い。また日本旅行業協会も会員になっている日本展示会協会や会場の東京ビッグサイトのアドバイスなども得ることもできよう。
組織委員会や実行委員会の委員も官庁の局長クラス、政府機関のトップ、旅行産業の重鎮等錚々たる人物が並んでいる。通常、これらの委員は、数回の会合で、発言するだけで、それ以上の協力を望めないのが通例であるが、多彩な人材を委員に就任していただくからには、個人として、所属する組織として、この展示会に具体的にどのような協力ができるのか等について最初の会合で発言してもらい、実行に移してもらうようにしたほうが良い。とりわけ、イベントの広報面については、協力ができるはずである。従来の日本的組織委員会の性格も変革する時期に来ている。

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