「ツーリズムEXPOジャパン」展をより一層充実させるには② 寄稿・桜井 悌司(元ジェトロ監事・展示事業部長)

5.来場者誘致により一層努力すること
展示会は、4日間で最初の2日間は、業界日、残りの2日間は一般日となっている。  最初に、業界日のビジターの勧誘について考える。インバウンドで最も効果的な広報手法は、ターゲット国のツーリズム・ジャーナリズムや日本への観光客を送り出す旅行会社の招へいプログラムである。現在、日本政府観光局がVJTM &MICE Martを運営しているが、今後は、より一層招へいプログラムを強化・充実すべきであろう。展示会の機会に招へいし、日本のインバウンドの振興に数々のアドバイスをもらうとか、シンポジウムを開催するのも一案である。海外の旅行会社に強く働きかけ、EXPOに合わせて訪日してもらうように努力することが重要である。  アウトバウンドについては、現在多くの日本のテレビ局が海外旅行や世界遺産関連の番組を放映している。これらのプログラムとツーリズムEXPOジャパンとの接点を模索すべきである。前述のゲスト・カントリーに選定された国には、日本のテレビ局がクルーを派遣するという方法もある。2017年から「ジャパン・ツーリズム・アワード」を創設しているが、この賞の中に「海外旅行番組年間最優秀賞」のようなアワードを設けても良い。日本のテレビ局に加え、海外で放映された日本旅行紹介のテレビ番組等も対象にしても良い。
内外の旅行ジャーナリズムの協力も不可欠である。共催3者も一致協力して、一般マスコミ、旅行ジャーナリズムからの協力が得られるようなメカニズムを創ることも必要である。日本経済における観光産業の重要性を考えれば、国土交通省記者クラブに加え、「観光記者クラブ」のようなクラブの創設が望まれる。経済産業省には経済産業記者会があり、別途ジェトロの中に貿易記者クラブが存在するように。
現在、一般日は土曜、日曜に行われている。入場料は、1300円、学生は学生証を提示すると無料となる。一般来場者にとって最大の関心事は、このEXPOに来れば、疑似世界旅行を楽しめることに加え、世界旅行、国内旅行についてのノウハウや情報を入手できることであろう。そのためには、主催団体の会員企業の協力を得て、世界の地域別、国内の地域別旅行の相談コーナーを設けることも検討に値する。  前述のように若い世代の海外旅行熱は大いに冷めていることもあるので、大学生のみならず、先生に引率のもと中学、高校生にも来場してもらい、展示会を見ながら海外旅行の魅力、楽しみを味わってもらう、場合によっては、展示会関係者や観光関係者によるレクチャーも聞けるような学校の課外社会科授業や遠足的なプログラムの実施も検討した方が良い。
また大学の旅行研究会、旅行好きの高校生を対象とする内外旅行に関するアイデア・コンテストのようなイベントを展示会の一般開放日に実施し、若者の旅行に対する関心度を高めるというプログラムも考えられる。このようにして、若い世代が、世界や海外に目を向けるという習慣を育てることによって、5年後、10年後の日本のアウトバウンド旅行の振興を図るという息の長い活動も考慮すべきである。ただ、中高生や大学生のEXPO見学は景品目当の遊び半分となることも考えられ、来場者の質の低下を招く可能性もあるので、引率する先生に事前にアドバイスしたり、出展者等の意見も聞く必要があろう。

2024年開催のようす

6.「特別企画イベント」をより一層充実させること
展示会主催者は、展示会をより一層魅力的にするために、様々な特別企画を実施する。例えば、今回の展示会でも、特別コーナーとして、「クルーズ」、「アドベンチャーツーリズム」、「アカデミーコーナー」、「テーマ型観光地展」、「旅の広場」、「観光SDGs」を企画している。また「ブースグランプリ」、「ふるさと応援フェスタinツーリズムEXPOジャパン」等々で盛沢山である。印象的には、全ての企画が小規模でインパクトが十分でない。様々な企画が考えられるが、アウトバウンドとインバウンドのそれぞれで、1つか2つ大規模な企画イベントを行うという方法が考えられる。全体のテーマに関連するイベントであればなお素晴らしい。
アウトバウンドでは、海外の諸国が日本人の旅行熱が低迷していることもあり、出展に積極的でないが、例えば、国ごと地域ごとに「日本人の観光客を誘致するには」といったセミナー、シンポジウム、タスクフォースなどを組織し、日本人の旅行ジャーナリスト、評論家、実務家との意見交換を行うよう場を設定してはどうであろうか? かなりの手間暇がかかるが、やってみる価値はあると思われる。
インバウンドでは、観光庁や日本政府観光局の支援を仰ぎ、可能な限り多くの旅行ジャーナリスト、インフルエンサー等を招待し、日本の観光の魅力につき、十分に知ってもらい、帰国後各国で報道してもらう。滞日中にセミナーやシンポジウムを開催し、共通の関心事につき意見交換するような機会を設けることも必要である。このようなことはすでに主催者として行っているものと思われるが、より徹底的に行うことが重要である。また現在話題になっている「オーバーツーリズムにいかに対処するか」のようなテーマでシンポジウムを開催するのも興味深い。
一般向けのテーマについては様々なものが考えられるが、例えば「世界遺産人気スポットベスト20」、「旅と食」、「癒しの旅」、「外国人が選ぶ日本の観光スポット10」、「旅の新しい楽しみ方」、「旅とおみやげ」、「海外旅行で体験した珍しい経験を話すワークショップ・セミナー」、「ゲスト・カントリーの魅力を紹介するセミナー」、前述のような「海外旅行、国内旅行何でも相談コーナー」等々である。

■おわりに
以上、様々な意見やアイデアを紹介したが、日本の観光業を取り巻く環境は厳しいものがあることは、周知の事実である。日本の海外旅行市場に対する需要や潜在成長力の限界を感じている海外の主要観光国の日本離れ、日本パッシングの問題が生じている。それゆえにこのEXPOの規模拡大は望めないという意見もある。  また、海外の主要な観光見本市のようにBtoBに戻ったほうが良いのではないかという意見もある。様々な考えが存在するが、このままでは、徐々に縮小すると考えられるので、実現可能なことは全て実行に移すという心構えが必要である。関係者のアクションを望みたい。