【MICE誘致のプロが語る】MICE アンバサダーの集い【レポート】

(※本記事は雑誌「EventBiz」Winter(11月発売)からの転載記事です。)

日本政府観光局(JNTO)は10月1日、東京大神宮マツヤサロンで「2024年度MICEアンバサダーの集い」を開催した。

MICEアンバサダーとは、国際会議などの開催地として日本の存在感や影響力を向上させるためにJNTOが任命している国際会議誘致に知見のある有識者のことで、「日本の顔」として国内外にMICE開催国・日本の広報活動や国際会議の誘致活動を行っている。「MICEアンバサダーの集い」はアンバサダー同士が交流を通じて誘致や開催の知見を深めることで、日本でのMICE開催を促進することを目的に2013年にスタートしたイベントで、12年目となる今回は、MICEアンバサダー35人が参加した。

はじめにJNTOの蒲生篤実理事長が、5月に発表されたICCAの統計から、2023年に世界で開催された国際会議件数がコロナ禍前の8割弱まで回復し、日本は昨年の12位から7位と順位を上げたことを伝え、「2030年までに世界5位という政府目標に着実に近づいている。アジア太平洋地域では韓国やオーストラリア、中国を引き離し、連続して1位で、都市別開催件数でも東京や京都を含む15都市が70位以内にランクインしている。この成果はアンバサダーの尽力のおかげ」と感謝の意を示した。

政府が昨年策定した「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」では、2030年までに国際会議の開催件数を世界5位以内にすることが掲げられた。観光庁の中野岳史国際観光部長はこの目標達成に向けて、予算を拡充してMICE誘致・開催の促進に取り組むとして、アンバサダーに対し「誘致の際に中心的な役割を担っていただくことになる。会議案件の更なる発掘、日本開催の意義についての普及啓発、日本の魅力を発信する広報活動にも力添えいただきたい」と呼びかけた。あわせて今年度から大学における国際会議誘致開催の促進事業を開始したことを報告。「これからの誘致・開催に不可欠な次世代の国際会議主催者の育成、ビューローとの連携強化など長期的な視点で取り組んでいく。大学や学会の若手研究者の育成、地域関係者との連携構築に向けて協力いただきたい」と続けた。

JNTOの巽麻里子MICEプロモーション部長は、昨年の国際会議の開催状況から日本の現状について報告した。2030年の目標である5位にいるドイツとは100件の開きがあること、都市別ランキングで東京は13位とTOP10ではないものの、アジア・太平洋地域でのランキングに富山、松江、奈良、新潟といった地方都市がランクインしていることから「国際会議は各地で開催できており、総合力として国がランクインしている状態。2019年に発表したJNTO統計に基づいた会場別開催ランキングでは神戸大学、パシフィコ横浜、京都大学、名古屋大学、九州大学と続く」と説明した。課題面では大都市で開催する国際会議を把握することを挙げ「特に大学で開催する会議の把握は難しいので、大学とのコミュニケーションについて知恵を借りたい」とアンバサダーへ協力をお願いした。

2023年のMICEアンバサダーの成果として、13件の誘致成功、21件の国際会議開催が挙げられた。JNTOは支援として、観光庁長官による組織委員会へのレター手配、海外参加者を増やすための前大会への参加とプロモーション、WEBサイトでの成功事例の共有、主催者向けセミナーの開催といったサポート活動を行っている。そのほか大きな取り組みとして、日本で国際会議を開催する意義の普及啓発に向けて番組を制作した。巽氏はBSテレビ東京で放映された「世界から日本へ日本を世界へ探索!国際会議の現場」を紹介し、「今後も国内への露出を高めていきたい」と述べ、開催予定の国際会議主催者セミナー、2025年2月13日に東京国際フォーラムで開催するIME2025の告知を行った。

現在のMICEアンバサダーは全国で64人。今年は新たに、2027年に浜松で開催予定の「第14回国際DOHaD学会」の誘致を行った浜松医科大学産婦人科の伊東宏晃主任教授、昨年広島で疲労に関する国際会議「Fatigue2022+1」の開催に貢献した岐阜大学工学部機械工学科の植松美彦教授、日本学術会議会長で、大学改革支援・学位授与機構の理事も務める光石衛氏の3人が加わった。光石氏は「国際会議の日本開催は、日本の若手研究者が数多く参加することができ、日本の研究成果・技術を世界へ発信し、研究者のグローバルなネットワーク構築という点で意義のあること。各種のオンライン会議が発達した現代でも、facetofaceの機会を持つ機会は貴重。学会での社交は研究発表と同等か、それ以上に大切だと思っている。MICEアンバサダーとして国際会議運営に携わった経験や参加した経験を活かし、日本への誘致促進にお手伝いしたい」と意気込みを語った。

家正則氏による講演「三度目の正直となった国際光工学会『天体望遠鏡と観測装置』横浜大会」では「SPIEASTRO」の誘致と2024年開催までエピソードが共有された。

SPIEASTROシリーズは、12の分科会からなるシンポジウムで参加者2000人を超える観測装置に関する唯一最大の国際会議で、1970年代から欧州と北米で隔年に交互開催されてきたという。家氏は「すばる望遠鏡(ハワイ)とアルマ望遠鏡(南米・チリ)によって、近年の日本の天文観測研究は欧米に並ぶ地位を確立した。それを背景に2008年のマルセイユ開催で組織委員長を務めた際に、欧米の開催地のサイクルにアジアを入れること、2012年の日本開催を提案し、満場一致で可決された」と誘致の過程を振り返る。ところが2012年開催は2009年のリーマンショックによる円高で、次に誘致した2020年はコロナ禍で中断。3度目の2024年は無事開催となった。家氏は「断念が続いたので本部も日本開催を望んでくれていた。2024年やっと初開催ができ、シリーズ最大の会議となった。結果として、これまで10%以下だったアジアからの参加者が20%まで伸びた。2度の失敗があっても開催できたので、誘致をあきらめないでほしい」と伝えた。