人材不足やコンプライアンスの問題、若手世代の価値観の変化をはじめ、映像とイベントのビジネスが抱える課題は多い。特に経営者はこれらの課題と正面から向き合っていかなければならない。そこで日本映像機材レンタル協会(JVRA)と協力し、協会の次世代経営者4人をお招きした。業界の今後をどう読んでいるか、座談会で語り合ってもらった。
[登壇者]
・エージーエーコーポレーション 代表取締役 飯野 弘基 氏
ホテルや会議スペースをはじめMICE やオフィスの仕事が多い。若いスタッフが多く、平均年齢は33歳で、社員の7割が20代と30代。
・ストロベリーメディアアーツ 取締役 永渕 裕康 氏
下関の本社に加え東京ほか各地で拠点を展開する。主にイベント、コンサート、放送分野を手掛ける。
・マグナックス 代表取締役副社長 森谷 真義 氏
スクリーンの製造販売からスタートし、映像の制作も手掛けるように。ステージのマッピング映像を請け負うことが多い。
・ユーリンク 代表取締役社長 鵜澤 亮 氏
創業時は「マルチビジョン拡大機」を取り扱っており、その後レンタルにシフト。現在は株主総会を主に手掛けている。
各社の仕事に「色」がなくなっていく?
─今日は会社経営に携わる皆さんに集まっていただきました。皆さんは協会の活動を通して、すでにお知り合いなんですか
飯野 私は2年前に代表に就任して、昨年JVRAに入会したので、皆さんと比べるとまだまだ交流はこれからの段階です。でもマグナックスさんとはオフィスが近所なこともあって、やり取りがまったくなかったわけではないんですよ。
─なるほど。それでは早速、映像業界の昔と今についてお伺いしたいのですが、皆さんの入社当時と比べて、業界が変わった実感する部分はどんなところですか?
森谷 昔の現場と大きく変わったのは、やっぱり怒号が飛ばなくなったことですね。ステージ上から「バカヤロー!」と会場中に響いていたのがなくなって、スタッフが落ち着いて作業している。現場の雰囲気は良くなったと思います。
永渕 昨今のコンプライアンスの問題はじめ、常識が大きく変わってきているのは、僕らの業界もいわゆるメジャーになりつつある証拠じゃないですか? 社会に注目されるようになって、求められる基準も高まっているというか。
鵜澤 僕は皆さんより後から業界に入りましたが、機材と技術、ネットワークの進化で、常に仕事のやり方は変わっていきますよね。常に勉強していないと、いつの間にか置いていかれるな、という危機感はいつもあります。特に最近は生成AIの勢いがすごい。僕たちが携わる株主総会のような慎重な対応が求められる場でも、顧客から「生成AIで何かできるでしょ」と期待されます。新しい技術も取り入れていかなきゃいけないですし、技術が入れ替わるスピードも加速していると思います。
森谷 技術の進化で懸念するのは、「職人がいなくなってしまう」こと。昔、われわれが機材を触っていたときは、必ず専門の技術者がいた。時間をかけて機材の操作を覚えて、ようやく調整ができていたのが、今やプロジェクターを置くだけで映像がぴたりと合ってしまう。つまりわれわれの仕事が、特別なスキルを必要としない仕事になる世界が近づいているのかなと。経験が浅くても機材を持って行けば仕事ができる。
そうなると今度は、どういう風に自社の“色”を出して、お客さんに売り込んでいくかを考えなければ、事業の継続が難しくなっていく。各社の個性、技術の差を出していかないと、どこでも同じようなサービスが提供できてしまう。すでに昔よりも会社ごとの色が薄れてきている気がします。
永渕 確かに昔に比べて「職人」は本当に減ってますね。だからこれからは技術以外の、優秀な人材の育成、業務のスピード、現場の仕上がり、あるいは「人間力」といったような、技術以外で差がついていくのかも。われわれが取り扱っている商品はモノとはいえ、モノを運んで終わりの商売ではなく、やっているのはサービス業。お金を受け取って楽しませて、イベント参加者にいかに満足して帰ってもらうか。さらに言えば発注者が希望するものが納められるかが、この仕事で一番基本となる考え方ですからね。
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