日本映像機材レンタル協会 & ピーオーピー合同企画 座談会 第3弾
観客を魅了するステージ演出の舞台ウラ(その3)
細部までこだわることが
観客・アーティストへの礼儀
――浜田省吾さんの舞台演出はどのように進めていくのですか
川上 私の今回の浜田さんのステージづくりは舞台とスクリーンの配置を3Dの図面に起こすことからはじめました。それはお客さまが会場のどの場所に座るかによって、ステージの見え方が変わるからです。ステージセットや、他の機材によって見切れが出たり、角度によっては画面が見えづらくなる場所の検証を行ないます。事前に3Dで検証することにより、プロデューサーと相談をして、できるだけ多くのお客さまに同じ条件で観てもらうためです。
――しかし、図面まで起こすというのは大変ですね。
川上 CADで作図したりしています。確かに楽ではありませんが、なにかたたき台がないと議論がはじまりませんし、見え方が想定できますので、具体的に話が進みやすいので、3Dで図面を作成して相談するようにしています。
――浜田さんのコンサートでは、どのような機材を使っているのですか
川上 ステルスというシースルーのスクリーンを使用しています。この機材はもともとマドンナのコンサートのために作ったものですが、日本の舞台演出を変えた機材なんです。
――その機材によってどのような演出が可能になったのでしょうか
川上 大幅な軽量化がこのスクリーンの特徴です。アリーナツアーでは画面を天井から吊り下げる事が多いのですが、各会場で吊れる重量が決まっており、条件を合わせる為に画面を少しでも軽くする必要があります。従来のLEDでは300インチで2t以上あったりするのですが、ステルスだと同じ大きさで250kg程度の重量で収まります。これを機にLEDメーカー各社が軽量化LEDに目を向けるようになりました。現在のコンサートに大規模な映像演出が可能になったのはステルスのおかげといってもいいですね。
――浜田省吾さんの舞台の特徴はどのようなところですか
川上 アイドルグループのように激しい動きがありませんので、迫力ではなく芸術性を追求し感動的な演出に仕上げています。ツアーテーマと曲のイメージをどう表現するかが主題となります。板谷さんという有名な方が監督をされていることもあり、舞台をより芸術的に感動的に演出されています。
たとえば、舞台の後ろでカメラマンが撮影することで、浜田さんの目線で観客席を映すシーンは感動的でした。それから、1年以上にわたりツアーの企画段階、最初の会場から現在までのもようをまとめて、当日までの一歩一歩積み上げてきたものが見られる映像は、そのコンサートにかけた努力と情熱が伝わるものになっていました。
――独特な技術なども使われるのですか
川上 そうですね。映像をまるで照明のように活用しながらも、照明ではできない形や色、画像の揺らぎを見せる手法を使いました。また、コンサート中の照明の明るさや、スモークの量に応じて映像の出力を変えたりします。これはオペレーターが自分の眼で判断するしかなく、各スタッフと打ち合わせをしながら、本番中に調整しています。このようなことを、仮組み(今回は2週間)を行なっているうちに実施します。
――機材についてはどのような点に気をつけていらっしゃいますか
川上 スクリーンの素材を選ぶのもその一つです。同じスペックのものでも映像や演出意図を考えると硬い素材かやわらかいものか、といったことまで考えます。予算の都合もあり思い通りにはなりませんが、そのなかでできるベストな選択を目指します。また、自分のセクションのことだけでなく、舞台全体のことを考えてより良いものを出していくことが、お客さんとアーティストの方への礼儀だと考えています。
――コンサートのお仕事でご苦労されるのはどのようなことですか
川上 この仕事で大変なのは時間に追われること。朝の9時に設営を開始して、リハーサルが始まる午後1時ころにはつくりあげなければいけない。時間との戦い、そのなかでどこまで完成度をあげるかが腕の見せ所ですね。
技術の進歩と発想力で
常に新しい演出を模索
――これからのコンサートの映像演出についてのお考えは
東田 最近、会場以外の場所でのライブビューイングがふえてきました。これが新しいコンテンツになるとすると、会場で撮影している時点からそれを意識した演出も必要になるのかもしれません。
飯田 ライブに近い体験を提供することで、それが実際のコンサート会場に来てもらうきっかけとなればいいですね。ただそのためには、本番中の演者たちの意識も変えていかなければいけないと思っています。だれに何を伝えるのかによって、演出は変わっていくはずです。
川上 わたしは技術が進歩することで、かえって原点回帰する必要がふえると思っています。さきほどお話ししたように、スクリーンが軽量化したことで、大画面で迫力のある映像表現が可能になりました。しかし映像が目立ちすぎて、本人が見えなくなってしまうようではいけません。そういうバランスを考えて、アーティストのそのときの生の表情を一番見せていきたいですね。
東田 シースルースクリーンの利点である存在感を消せることを、どう活用するかが鍵になりそうですね。
飯田 技術の進歩が演出の可能性を拡げてくれました。しかし、それだけでなく、発想の拾い方も新しい表現には必要になります。わたしの場合は子供の目線や発想をヒントにするときがあります。自分では考えつかないような発見をすることが多いですね。そのほかにも日常生活のあらゆるところにアイデアの種があるので、常にアンテナを張っていたいですね。
――みなさん、今回は貴重なお話をありがとうございました。
今後のさらなる活躍に期待しています
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◆JVR座談会アーカイブス