【インタビュー】虎ノ門ヒルズフォーラム新ジャンル確立へ挑む

 

2014年、新設のコンファレンス施設のなかで注目を集める「虎ノ門ヒルズフォーラム」。今回、コンセプト設計などを行なった森ビルの倉橋慶次氏とテクニカル面でサポートしたホットスケープの前野伸幸氏にインタビューし、次世代のコンファレンス施設のあり方を聞いた。(取材・2014年3月7日/「見本市展示会通信」2014年4月1日号掲載)

 

話題のカンファレンス施設
7月5日に開業

都心の地下を環状線が走るという計画が東京都から発表され、高層ビルの真下にもその地下トンネルが貫通すると話題になった「環状二号線」道路計画。完成すれば、全長約14㎞の環状第二号線が都心と臨海部をつなぎ、2020年の東京五輪開催時には選手村とメインスタジアムを結ぶ道になる。その一部である第一京浜(港区新橋四丁目)から外堀通り(港区虎ノ門二丁目)までの約1.4㎞を交通開放したのが3月29日。こうした道路整備事業とともに、市街地再開発地として新たな展開が進められている虎ノ門・新橋エリアは、今後10年でもっとも街並みが変わると言われる注目のスポットだ。

森ビルは、ここ虎ノ門に、東京都が施行する「環状第二号線新橋・虎ノ門地区第二種市街地再開発事業Ⅲ街区(環二Ⅲ街区)」の特定建築者として、オフィス、住宅、ホテル、店舗、カンファレンス施設を有する地上52階、地下5階の超高層複合ビル「虎ノ門ヒルズ」を建設している。

森ビルでは、ビル建設の計画段階から4・5階にカンファレンス施設を組み込んでおり、2011年12月にアジアヘッドクォーター特区のエリア指定を受けたことで、国際会議に相応しい施設へと計画変更を行ない、3つのホールと4つのミーティングルーム等を併せ2180m2の施設『虎ノ門ヒルズフォーラム』を2014年7月5日に開業する。昨年7月には事前予約もスタートさせた。話題のビル内に誕生すること、虎ノ門・新橋エリアで最大の施設であることもあって、イベントの企画・運営関係者からも、すでに多くの問合せが集まり、予約も順調だと、森ビルの倉橋慶次さんは話す。3月初旬、建設現場を目前にのぞむプレゼンテーションルームで話を聞いた。

“スマートカンファレンスセンター”確立

<施設コンセプト>
倉橋さんは、森ビルが六本木ヒルズの49階で運営する施設「アカデミーヒルズ49」での経験をいかし、『虎ノ門ヒルズフォーラム』の開設に当たっては全体責任者として、施設コンセプトやハード面全般、各階のホールおよび控え室のレイアウトなど、計画を推進してきた。

一般にビルイン施設のオーナーであれば、丸ごと外部に貸し出す、あるいは売り出すなどの方法もあるが、森ビルは「自分たちですること、施設も自らつくること、にこだわりがある社風なのです」と倉橋さんは話す。今回の虎ノ門ヒルズフォーラムも森ビルらしい施設を実現するため、自社での管理・運営を選択し、一から積み上げた。

その最初の一歩で立ち返ったのは、「われわれの施設ってなんだろう」という疑問。ビルイン型施設の理想形を追求していくなか、方向性としてたどり着いたのが、使いやすい機能性とホテルライクなホスピタリティの両立を目指す“スマートカンファレンスセンター”というコンセプトだった。

「貸し会議室に、演出性・イベント性の向上を付加したものが多目的ホールやイベント会場だとすると、VIP案件対応力の向上を付加したものがホテル宴会場。そこに並ぶ施設が〝スマートカンファレンスセンター〟という立ち位置です。高度で複雑なオペレーションに対応する施設になります」(倉橋さん)

ホテルが結婚式や披露宴なども対象とするのにくらべ、〝スマートカンファレンスセンター〟はBtoBのイベントに特化した利用シーンを想定している。

<イベントのプロとコンセプトを実現>
来場者の満足に加えて、主催者や事務局、イベント代理店などが抱える手間や煩わしさといった負担を軽減することが、コンセプトを実現するサービス、と考える虎ノ門ヒルズフォーラム。そこにはイベントを支えるプロに評価される施設を目指すという思いがあり、「イベントのポイントを把握し、先回りした提案を行なうこと」、「ハード面でも、持ち込み機材やサテライト対応などにスピーディに対応するインフラをあらかじめ用意・構築すること」を謳う。そのため、計画・設計段階からイベント実務のプロとインフラを最適化していった。

テクニカル面のコンサルティングには、イベントの企画・運営を行なうホットスケープの前野伸幸さんが参画。ホール運営の経験もあり、現場を知る立場から主に映像・音響・照明に関する機材選択、ITインフラ関連の整備など、約2年前からアドバイスを行なってきた。

会議室やホテル、コンベンションホールなど、さまざまなタイプの会場でイベント経験のある前野さんからみると、虎ノ門ヒルズフォーラムは「360インチの大型スクリーンをもつメインホールや外光の入る50mワイドのホールAなど、ちょっとずつ違った特徴をもつホールが同じビル内に集まっていて面白い」施設。マルチなイベントに対応でき、想定範囲も広いため、アドバイザーとして機材は何を常設し、仮設に代替すべきものは何かなど、取捨選択していった。また、「イベント制作会社の視点からすると、ハード以上にみえない部分に魅力がある」施設でもある、と話す。

たとえば、光回線が各階のホール、控え室、ロビーのすべてに敷設していることもその一つ。施設内全体での複合利用のケースでは、すべてを光でつなぎたいという要望も多いため、通常は仮設でコードを引くなどの作業が発生する。実際に入場管理システムでサーバーを一つ置いて受付を複数に設置、どこからでもイベントにチェックインできるといった光活用はよくある。「インフラを構築することで設置時間を短縮し、利用料金も抑えることができます」と、ユーザー目線の工夫をしている。

伝える努力

虎ノ門ヒルズフォーラムの開業は7月5日。事前内覧会は、虎ノ門ヒルズのビル開業日6月11日以降で、6月中旬頃を予定している。

倉橋さんは、「実際に見に来ていただき、〝スマートカンファレンスセンター〟が、会議室や多目的ホールとどう違うのか、ホテルとは何が違うのかを実感してほしい」と話す。

内覧会場では、家具メーカーと2年かけて共同開発した長時間座っても疲れにくい専用チェアや、多彩なメニューから選択できるケータリング(ホテルではホテルの料理しか選べないのに対し選択肢の幅があるのが特徴)を用意。

「どうしたらお客さまに伝えられるのか」に注力をし、チェアの解説パネルを展示したり、価格帯だけで選びがちなケータリングも各社のパンフレットで提案するのではなく、メニューを選ぶ楽しさを演出するために、各店に取材して記事タッチでまとめたリーフレットで展開したり、と施設と触れ合うさまざまなコンタクトポイントに一工夫を心がけている。

館長・副館長(仮称)というポジションを新設して、施設の顔をつくるなど、さまざまな試みをする。その理由を倉橋さんは「施設は使い慣れてくると、どうしてもルーティン化してしまう。そこに人との交流というヒューマンタッチな要素を重視し訴求していきたい」と説明する。

運営スタッフのほか、テクニカル人員も常駐し、人間力のあるホールを目指す。「新たなジャンル開拓に挑み、自らが定義したものを実現したい」と倉橋さんは話す。

(「見本市展示会通信」2014年4月1日号内『MICE施設新設の動き』企画にて掲載)