日本映像機材レンタル協会 & ピーオーピー合同企画 座談会 第4回
日本全国で活躍するJVR協会の仲間たち(その2)
◆どんなピンチも乗り越える技術と経験
--では、みなさんの仕事の事例を観ながら、映像演出の魅力や現場のウラ話などをお聞かせいただきたいと思います。永山さんからお願いします。
永山 これは、ある学会での医療ライブです。札幌市内の病院で行われている手術のようすを、市内のホテルで開催している学会の会場に、フルハイビジョンで生中継しました。200人くらいが観ていて、現場とセミナー会場で掛け合いをしながら、最新のオペ技術や進行方法を伝えるというものです。
--手術中継って多いそうですね。私なんか怖くて観てられません
永山 このときはカテーテル手術だったので、血はあまり出ませんでしたよ。
髙嶋 これは、岡山大学がパナソニックと組んで実施した、インタラクティブ3D技術を用いて、立体的に解剖を観察できるというものです。香川県医学会の中でお手伝いさせていただきました。スクリーンサイズが幅10m×高さ約6mという大画面でした。
--そんな大画面で解剖のようすを、しかも3Dで・・・。ご飯が食べられなくなりそうです
渡辺 学会では見慣れた光景ですよね。直接見ているわけではないので馴れました。食事もふつうにとれます(笑)
髙嶋 麻痺してきますよね。
--そういうものですか・・・次に行きましょう。これは
永山 ヤナセのショールームでベンツにマッピングしました。流行りなので、やらせてもらいたいと。
--光映堂さんから提案したということですか
永山 そうです。上司の知人がこのお店に勤めていて、お願いしたんです。だから、できるだけ大勢の人に観てもらいたかったんです。
--人を集めたのですか
永山 それはできないので・・・実は、ここは札幌ドームに向かう道なのですが、この日は大物アーティストのライブがあり、これを観に来た人の帰り際をねらって実施しました。
--うまい!反応はいかがでしたか。
永山 みんな足を止めて観てくれました。マッピングを初めて観た感じの人も多かったです。
--自分たちのやりたいことをお客さんに提案する。これこそみなさんのこれからの仕事のあり方だと思います。現場のスタッフさんもやりがあるんじゃないかと。
永山 首都圏ではたくさんやっているので、一回やってみたかったんです。だから、ビジネス度外視。お金にはなっていません。それより、スタッフにノウハウを身につけさせたかったので。
渡辺 このコンテンツはよくできていますね。どこがつくったんですか。
永山 テレビ関係の仕事をしているところにお願いしたのですが、ヤナセは販売店なので、クルマの設計図をもっていなかったんですよ。
渡辺 どうやってモデリングしたんですか。
永山 写真から落としていくしかないですよね。かなり苦労させてしまいました。プロジェクタも1台しか使っていません。
--それでも、これだけのものを創り上げるのですから、プロだなと感じます
--オプチカルさんの仕事をみてみましょう
髙嶋 サンポート高松というコンベンション施設のテント広場で、万華鏡アートの有名な先生がつくった万華鏡のビジュアルをテント一面に投映するというイベントです。
--投映した天井はどのくらいの大きさで、プロジェクタは何台くらい使いましたか。
髙嶋 30m×33mで約1000㎡です。天井高は9m。プロジェクタは全部で10台・・・
永山 多すぎませんか。
髙嶋 実はメーカーの協賛で、あらかじめ用意されていたプロジェクターは4台しかなく、しかも標準レンズ仕様で輝度も普通だったので、どう計算してもこの4台だけでは無理なわけで・・・。いったいこれでどうしろと?(笑)といった感じでした。かといって予算が出るわけでもないので、高輝度・単焦点のプロジェクタも使用できない。そこで協賛メーカーさんにお願いして6台に増やしてもらい、あとは万華鏡アートの先生がお持ちになったプロジェクタ4台と合わせて10台で、なんとか天井一面を照らしました。
--現場はいろんなレギュレーションがあって大変ですね
髙嶋 話しがきたのも2週間前で、試し打ちをすることもできず、セッティングは当然、前日でした。設計図とかコンテンツのソースとか、現場に必要な情報を正確にもっている人もいなかったので、私のイメージとカンでイントレ(プロジェクタを設置する足場)の位置を決めたり、機器をつないだりしました。調整も日が落ちてから2時間弱しかない。でも、ここまできたら、先生の意向を何とかカタチにしてあげたいとの思いでやりました。最後は当日に、少し映像が見えた瞬間に、お客さんが集まっているなかで微調整してなんとか見えるように整えました。
--やりきっただけでもすごいです。
髙嶋 いろいろ悔いも残りますが、先生も観客も喜んでくれたので、とりあえずよかったかなと(笑)。
--大ピンチだったはずですよ。みなさん、こんな経験されているのですか
◆オペレーターの感覚は職人技
永山 先ほどの医療ライブの仕事を初めて受けたとき、その機材を用意すれば「設定はほかに担当がいるから」という話しなので、機材を買って現場に行ったら「そんな人はいない」と。泣く泣く私がやってみました。触ったこともないから、何をどうやればいいのかわからない。悔しいけど初日までにつなげることができなくて、この日はバックアップで乗り切りました。その1日目が終わったあとに、ようやくつながって、2日目はきちんと見せることができました。気が付けば3日徹夜していました。
--もう返す言葉もありません
井上 本番までの日がない仕事はよくありますよね。
渡辺 本当に。本番から依頼がくるまでの日数が、どんどん短くなっているように感じます。私が入社した頃は1、2か月前には話しをもらっていたはずですが、最近は1週間とか、ひどいと3日前に「こんなことやりたいんだけど」という話しがくる。もちろん私たちはプロだから、きっちり納めなければならないと思っているので、やります。そもそも断れないし(笑)。でも、内心はもうちょっと早く、ここまでは詰めてから依頼してくださいと思っています。
髙嶋 すごく同感です。JVRの各社は、みなさんそう感じているのではないでしょうか(笑)。
--代理店やPCOなど、川上の人たちがしっかりしてないから、こういうことが起こるんです。あまりみなさまのお客さんのことを悪く言ってはいけませんね(笑)
井上 急な依頼で困るのは、自社にない機材が必要なときです。こんなときにJVRのネットワークが活きるんです。短時間のうちに、メンバーの誰かが「あそこが持ってる」というのを教えてくれる。
--でも、自社にない機材だと、使い方を知らないということはないのですか
井上 各メーカーで似ている部分もあるので、経験のあるあるオペレーターは、こうかなこうかなと探っていくうちにできてしまうんです。これはもう職人の感覚ですね。
--プロですよねえ。みなさんにとっては当たり前なのでしょうか。菊地さん、こういうものなのですか。
菊地 どんなピンチに陥っても、どんな球を投げられても、経験と工夫で凌いで、最低でも及第点は取る。大きな失敗はしない。請け負った以上は必ずやり遂げるというのが、我々業界のオペレーターの誇るべきところです。すごいと思います。
--井上さん、こちらは
井上 2012年10月に行われた「第14回 日本医療マネージメント学会」で、佐世保の会場と陸前高田の病院をつないで、現地の医療現場の実態を生中継しました。陸前高田の側はコセキさんにサポートしていただいて、大成功でした。
--JVRのチームワークと言えますね。今回のテーマを象徴するようないい話です(笑)
井上 渡辺さんは、けっこう忙しくしていたところにムリヤリお願いしたので「勘弁してよ」みたいな感じでしたけど(笑)
渡辺 そんなことないですよ(笑)。確かに、震災で落ち込んでいた分の跳ね返りがどんどん入ってきた時期だったので、バタバタでしたね。
井上 ウチからも現地にスタッフを送りましたが、生活インフラ以外は、まだまだ復旧していない状況でした。そういう状況も含めて、遠く九州の先生方に被災地の実情を伝えることが、この会議のメインの位置づけだったので、中継が無事にうまくできたことに対し、主催者からもお褒めの言葉をいただきました。そんな現場をやり遂げていただいて感謝しています。
渡辺 こちらこそ、ありがとうございます。
◆JVR座談会アーカイブス
第1回 ビジュアル空間をつくるプロフェッショナルのシゴト
第2回 ~プロが語る仕事の舞台ウラ
第3回 観客を魅了するステージ演出の舞台ウラ