日本映像機材レンタル協会 & ピーオーピー合同企画 座談会 <第4回> 日本全国で活躍するJVR協会の仲間たち(その3)

日本映像機材レンタル協会 & ピーオーピー合同企画 座談会 第4回

日本全国で活躍するJVR協会の仲間たち(その3)

 

◆震災を乗り越えて

 --震災の話が出ましたが、みなさん、あの頃をどう過ごしていましたでしょうか。特に渡辺さんは大変だったのでは
渡辺 あの日、私は仕事で東京にいました。帰りの新幹線まで、あと1時間というところで地震に遭いました。社員や家族の安否確認もじゅうぶんにできないまま土日を過ごし、月曜日に上越新幹線で新潟に出て、山形経由で仙台に帰りました。
幸いにも社員は全員無事で、社屋にもほとんど被害はありませんでした。しかし、仕事も生活もすべてがストップです。だからといって立ち止まってはいられないので、地震の翌日には会社のトラックやワンボックスを緊急車両登録して、水や食糧、毛布などの物資を病院や避難所に運ぶことに奔走しました。石巻市内の小学校でコーヒーやお菓子を配るなど、ボランティアに参加したスタッフも大勢いました。
仕事が戻ってきたなあと感じたのは、5月の連休明けでしょうか。東北自動車道と新幹線が復旧して、人や物の行き来ができるようになってからですね。よかったと思うのは、イベントごとも過度な自粛はやめようという雰囲気が日本中でできていたことです。
震災後いちばん最初の現場のことは、忘れられません。教映社さんからいただいた「第40回日本IVR学会」で、5月19日から青森市で開催されました。青森はあの3県に比べれば、そんなに大きな被害がなかったように思われてますけど、震災当初は電気・水道が止まっていたし、ガソリンもないしで、生活は大変だったんです。そういう状況でも仕事に行けることが、本当に嬉しかったですね。後にも先にも、あんなに全員総出でやった学会はないですよ。「そんなにいらん」ってほどでしたけど、スタッフは仕事に飢えてましたから「やっと仕事に行けるぞー!」って、めっちゃ盛り上がってました(笑)
--本当に大変なことを乗り越えてこられたんですね。もう、仕事は順調で?
渡辺 むしろ景気がいいくらいです。もちろん津波の被災地の状況は、みなさんも報道等でご存じの通りですが。
--MICEの関係だと、夢メッセみやぎが壊滅的な被害を受けましたね
渡辺 県が早急に復旧工事の予算を立てたこともあり、翌年の7月には再稼働に漕ぎつけました。震災前は、それほどしょっちゅう行っていた施設ではないのですが、リニューアルからずっと埋まっていて、震災前より賑やかです。われわれが仕事に行く機会も明らかに増えましたね。
--みなさんの地域は、当時どんな様子でしたでしょうか
永山 札幌もイベントがなくなりました。大きなイベントになると東京が絡みますから、そっちから物資が輸送されないので、何もできないという状況でした。インフラが復旧してからも、東北や首都圏で中止になったイベントやコンベンションは、ほとんど上がってこなかったですね。
髙嶋 四国も3月、4月・・・5月末くらいまでほとんどの案件はなくなりました。まず大きな仕事からなくなりました。ウチから依頼していた業者さんにも、随分キャンセルの連絡入れましたよ。ごめんね、って。でもみんなすぐに分かってもらえましたよ。この時期にかかってくる電話は、ほぼ間違いなくキャンセル電話だねって。
井上 みなさまの話を聞いていると申し訳ない気持ちですが、その仕事の多くが、こちらに流れてきてたんですよね。
髙嶋 あの時は、京都や大阪を飛び越えて九州まで飛んでいった印象です。
井上 直接的に何の被害もなかった私たちは、あの映像のショックが大きすぎて「ホントかな」と呆然としていました。それでも仕事は、止まるどころか流れてきましたから、忙しかったです。みなさんとの温度差がありすぎて・・・
--それでも中止になる国際会議もあったんですよね
井上 開催そのものが中止になるというのはほとんどなかったと思います。ただ海外の参加者が来ないというのはたくさんありましたね。
--風評被害の最たる事例ですね。中国や韓国からの観光客も激減したと聞きました。

◆常に最先端の技術と情報を身に付ける

--さて、事例の話に戻ります。渡辺さん、お願いします。

渡辺 マッピングの事例を2つ紹介します。これは泉パークタウン・タピオというショッピングモールの誕生5周年を記念して行われたマッピングです。「目覚めの森から夜の星空とオーロラまで、タピオの森の一日を表現する」というストーリーで、こちらはシネ・フォーカスさんとやらせていただきました。センターコートのドーム型の天井に、4方向からクロスして投映しました。もうひとつは2013年10月に、山形市の霞城公園というところにある城壁に投映しました。1.2万ルーメンの液晶プロジェクタを3台使ってます。ソフトと制作は、いつもいっしょに仕事をしている地元の制作会社がやりました。
髙嶋 ショッピングモールだとセッティングの制約が大変だったのでは。
渡辺 そうなんです。セッティングは閉店後の22時から。天井のCADデータがなかったので、このドーム型の球面に目測で合わせるしかなかったんです。当然徹夜です。しかもこの2つの現場が同時進行だったので、仙台のセットをいちどバラして山形に持って行って、また仙台に帰ってくるという1週間でした。
--先ほどから、キツイ話しばかりですね(笑)。それにしても、みなさんやはりプロジェクションマッピングには力を入れているというか、熱心に取り組んでいらっしゃいます。
渡辺 ウチは2012年の暮れ辺りから、マッピングをやりたいという問合せがとても多くなりました。ただ「東京に見積もりだしたら、ン千万もすると言われた」と、我々に相談がくる前に企画がなくなっていることも多い。でも東北にだって制作会社はあるし、我々機材屋だっています。ゼロから手探り状態でしたが、我々も実績が欲しいという思いがあったので、地元業者間で技術面も含めて協力し合いましょうと。現場スタッフはやる気に満ちていますから、なるべく多くの新しいことを経験させたいという思いもありました。それでがんばって事例もできたので、ここからは東北に打って出ましょうといった段階です。
--先ほどの光映堂さんの事例も、同じ目的ですね。マッピングという手法に対する需要は当然ありますが、これに限らず何でも対応しようというみなさまの姿勢というか、現場スタッフの貪欲さやバイタリティがすごいなと思います。こういう人たちが映像演出の世界を支えているのなら、お客さんにとってこれほど安心なことはない。だからみなさんに仕事を依頼する人たちは、もっといろんなリクエストを出してほしいし、予算だってもっともっと上げていいはずだと感じます。

◆お客さまへの信頼の証、JVR のチームワーク

--さて、これまでのお話を伺っていて、みなさんの仕事上、最新の技術や情報がとても大事なのだと感じました。みなさんは首都圏や大都市圏とは、普段どのようにつながっているのでしょうか。
渡辺 東京とのつながりは必須のことです。機材を借りることも然りですが、多くの案件は中央が決定権をもっていて、中央発信ですべてが決まっていきます。この流れはこれからも変わらないと思います。したがって、東京で何が起こっているか、JVRの仲間がどんな仕事をしているか、常に注視していないと地方の業者は追いつけない。東京の仲間とは、案件を通してもつながっていますが、これが本当に大事。私は月に1、2回は情報収集のために東京に行きます。
髙嶋 東京に比べると2、3年くらい遅れていると感じます。画面サイズをみても、16:9のハイビジョンサイズは、東京では当たり前ですが、私たちの地元では、まだまだSD(4:3の旧サイズ)が使われています。いまやっと16:9が動き出したといったところでしょうか。
--そういうものですか
髙嶋 そういうものです(笑)。東京や大阪の仲間にヘルプで呼ばれて行って「ああ、こういうことしているのか」というのがわかる。もちろん普段から、電話やメールでも問い合わせて、最先端の情報を知るようにしています。これはやはり、JVRのつながりがあってこそですよね。
永山 札幌も遅れていると思いますね。同じく、未だにSDの中継もありますし、地場発信の仕事がまだまだ少ないと感じます。仕事のなかで東京の技術なり最先端を体験しながら、ここで学んだことを次につなげていくという姿勢が大事だと思います。
--福岡はどうですか
井上 九州の田舎という認識ですよ。東京や大阪の仲間は機材量もすごいので、そういうところも参考にします。いいモノはいっぱいあるけど、ウチで全部は買えないから情報が大事。だから、購入基準は東京や大阪でよく使われているもの。実際に利用している仲間の「これいいよ」という声です。JVRのネットワークは本当に役立っています。
--つくづく、みなさんの業界は横のつながりが大切なのだと感じます。それは機材の貸し借りというレベルではなく、お互いのスキルや経験を高めるためのネットワークなのですね。これからもみなさんの仕事をしっかり取材して、映像演出の魅力を多くの関係者に届けたいと思います。菊地さんからもひとことお願いします。
菊地 東京とのつながりが強調されましたが、ウチからすれば、全国に仲間がいて、いっしょにやっていただけるから、お客さんから自信をもって仕事を受けられるわけで、JVRのネットワークが業務上不可欠なのは同じです。このことは、どの会員企業も同じ立場だと思います。ムリなお願いをすることもあって申し訳なしですが(笑)。JVRというネットワークをさらに強固にして、お客さんにいろんな提案ができるようになればいいと思います。
--素晴らしい締め(笑)。みなさんおつかれさまでした。ありがとうございます。

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JVR座談会アーカイブス

第1回 ビジュアル空間をつくるプロフェッショナルのシゴト
第2回 ~プロが語る仕事の舞台ウラ
第3回 観客を魅了するステージ演出の舞台ウラ