海外との比較
越野 日本の展示会は先進国である欧米を目標に発展してきたと思っていますが、まだまだ追いつけていないと感じる場面が多々あります。欧米では顧客との交流ひとつ取っても、展示会場の中でステーキを焼いたりワインを飲んだり、特定の顧客を非常に丁重にもてなすのです。その代わり、商談するときはじっくり腰を据えて行なうといったスタイルで、これは日本も見習うべきでしょう。装飾に関してもカーテンのような布を使った小間づくりをしていて、手軽だけど最終的にきちんと見栄えのするブースができあがります。
日本でもそういった取り組みを踏襲しようという動きがあったのですが、消防法の制限などがあり、なかなか実現にはいたっておりません。新しいことに挑戦する土壌が十分ではないのです。
豊田 日本は良くも悪くも展示装飾の規制は厳しいほうだと思います。ヨーロッパでは照明用のアルミトラスなどが比較的簡単に展示会場の天井から吊れるため、展示装飾の自由度や可能性が広がっています。日本では展示会場自体の天井が高いことや設営時間も少なく、事故の確率が高くなることを考えれば、厳しい規制もやむ負ないことかと思います。
越野 規制の多さは日本の特徴でもありますね。海外は展示会場があって、借りた後は自由に使ってくださいという風潮です。その代わり、主催者や運営者はそこで起きたことすべての責任を負う必要がある。言ってしまえば自己責任なのです。欧米を中心にアジア諸国でもそういった思想が色濃くて、ある程度の自由は保障されています。
芳賀 中国や台湾も日本と同様に消防署や警察の許可が必要で、消防署には展示場の図面も提出しています。日本と違うところは、トレードショーを民間が行なうことに肯定的ではなくて、公共団体や組合が行なうものだという考え方が強い点でしょうか。なかなか会場を貸していただけなかったり、開催許可が下りなかったりと苦労が絶えません。日本や海外の主催者が会場を借りる時に、一般的には中国の主催者が借りるより割高になるということです。
人材の確保・育成
越野 最近、展示会業界全体が着実にステータスアップしていると思います。運営会社の努力もあってのことですが、常に多岐にわたる分野の展示会が行なわれているのは喜ばしいことでしょう。展示会業界が活発になればなるほど、若い人間が「自分たちが展示会を行なうことで、産業全体のボトムアップをはかろう」と考え、行動してくれる。地方創生などを筆頭にそういった動きが見られるので、個人的にはさほど人材不足に不安を抱いてはいません。
豊田 どちらかと言えば、人材問題に悩んでいるのはディスプレイ業界かもしれません。最近、職人の高齢化が顕著で、後を継ぐ若手が不足しており、特に大工や表具などはその傾向が強いです。単純に人がいないというより、展示会業界に対する認知度が低いせいかも知れません。一般の建築業や内装業と異なり働く時間や曜日が不規則であったり、仕事があるときとないときの差が大きいのも原因かもしれません。
芳賀 なかなか良い人材は見つからないものですね。私は最近、英語や中国語が堪能な人を探しています。日常会話レベルではなく、きちんと契約書も書けるような人間が現地の展示会を担当しなくてはトラブルの原因になりかねません。
豊田 国際化社会では外国語を話せるだけでビジネスチャンスが大きく広がりますしね。海外の出展者から受け身の仕事をやるのではなく、英語を使って自分から営業をすることで得られる仕事もたくさんあるはずです。
芳賀 ビジネスガイド社でも来年の春から新卒採用をはじめます。今、いろんな大学でグローバリゼーション科ができていて、国際社会での活躍を見込める展示会産業の人材が増えているそうです。もっとも、グローバルな活躍が目に見えて分かりやすい大手商社マンやキャビンアテンダントとの就職競争に勝つことは容易ではないと思いますが。
越野 これからの時代、ITに強いというのはもちろん、外国語が話せるというのが必須条件になってくるのかもしれませんね。うちにも英語はもちろん中国語や韓国語を勉強している社員がいるのですが、やはり三カ国語くらいは話せると良いですね。
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