モーターショークラスの大規模ブースに要求されるデザインの力は、非常に多面的で複雑な仕事であるため、感性だけではなく、そのデザインを追求する行為は、絶え間なくずっと永くブランディングを考え続け、数値や経験値から導き出された理論の上で成立するデザインが要求される。
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◆ブランドを象徴するブースデザイン
ブランドの語源は、「区別すること」がベースにある。今回の東京モーターショー会場で展示されたクルマの台数は、380台で、各社がデザインや技術の粋を結集してアピールするどれも素晴らしいクルマである。その中で、一番の存在感を示し、来場者の記憶に残し、「これが欲しい」と思わせるために、ブースデザインが大きな役割を果たすわけである。
一方で、とても美しいブースも存在するが、その一部は、デザイナーの作品に終わってしまう例もある。
また、どのショーでも、意表をつく奇をてらったブースも存在するが、驚きだけが記憶に残り、実は効果測定を行うと、会社名や商品が出てこないという例も少なくない。
◆ストーリーを生み出すデザイン
従来、日本では、「高品質な商品は必ず売れる」という考え方があった。しかし今や、しっかりと伝えなければ多くの人々に理解されず、世界では、「売れない」ということを理解する必要がある。
最近、高視聴率をあげたドラマで共通しているのは、高品質な技術や商品を生み出す際のストーリーに焦点をあてたものが多い。
素晴らしい商品を伝えるために、品質だけを語っても心に届かないが、ブースという空間演出でシーンを魅せて提示し、ストーリーを生み出すと、デザインによる付加価値が生まれる。空間デザインとブランド・フィロソフィーが一致した感動や驚きの体感ができ、「欲しい」につながるわけである。
◆心に響き、感性を打つ、ストーリーとデザイン
メルセデス・ベンツに加え、アウディも時が流れ、色変化するストーリー・デザインで、その流れを何度も見続ける人が目立った。また、トヨタの浮遊感漂う時空間も、存在感を示していた。
こうして、デザイン的にも文句なしに美しく、ブランドやストーリーを表現することで、デザイナーの才能と理論が両立したブランドを訴求するブースが誕生する。
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(見本市展示会通信12月1日/12月15日号を元に再編集)
空間演出デザイナー、プロデューサー
(株)イルミナティ 代表取締役
ライティング・オブジェ制作委員会 代表
熊本市生まれ。多摩美術大学卒業。世界各国でのモーターショーブースデザインや人に夢と感動を与える空間の演出、プロデュースを行う。地球環境・資源保護に配慮したその仕事は、欧州でも評価され国内外で活躍。2006年から東京丸の内周辺で毎年12月に光のアートチャリティ「ライティング・オブジェ」展を主催し、12年目を迎える。2011年から東日本大震災、2016年から熊本地震の復興支援チャリティも行う。2012年7月の「明治天皇百年祭〜心のあかり」明治神宮夜間特別参拝のデザインでディスプレイ産業優秀賞、ほか多数受賞。