より国際的な感覚を
―人材育成について重視していることはありますか
グローバルマインドセットです。国を挙げてインバウンドを増やしていく方針ですが、そのなかでMICEの重要性はやはり大きいと認識しています。海外から来て、さらにエクスカーションをやることで「横浜ってとっても良い場所じゃないか」と口コミで広まります。これがすごく大事で、国際会議のいっそうの誘致、なかでも特に力のある、大規模な会議の誘致は重要だと認識しています。
誘致を成功させるには世界に目を向けながら自分たちの立ち位置を考えることが大切で、どのようにみられているのか客観的に考えないといけません。例えば日本人から見たら横浜はとても有名ですが、海外の人はGreaterTokyo(東京とその周辺)の一部だと思っていることが多いのです。そこで横浜は東京とは違うということ、さらにその中のパシフィコ横浜なんだとPRしていかなくてはなりません。ですから今後はプレスリリースの多言語配信を今より進めていくなど、国際的な展開の充実を考えています。
このグローバルマインドセットは日産時代に培ったもので、当時、純日本の重厚長大な企業であった日産が1999年にルノーと提携したことで、1年ほどの短期間のうちにグローバルカンパニーになる必要に迫られました。そこでは「言いたいことを言えるか」「以心伝心ではなく契約関係で仕事が進められるか」「一つ一つの会議に議事録を残すか」など仕事のプロセスを含めたグローバルマインドセットについて考える機会が多かったことから、この時の体験を人材育成に生かしていきたいと考えています。
―実際に社員へグローバルマインドセットを伝える場は設けたのでしょうか
6月に就任したとき、社員一同を集めて、モチベーションの持ち方や考え方について話をしました。まず行動指針として重要な①トランスペアレンス(透明性)②フェアレス(公平性)③カスタマーオリエンテッド(顧客志向)④リベニュー&コスト(利益&コスト)を意識することについて伝え、「できない理由を考えるのではなく、どうすればできるのかを考える」ことの重要性について話しました。
この時はスピーチのように壇上に立たず、ランダムに椅子だけを並べてみんなに座ってもらい、その間を歩きながら話す方法をとりました。心理学で対面は「対立の姿勢」といいますし、経営者の一番大きな役割はビジョンをしっかりと伝えることだと思っているので、上から言われていると思わせない、なるべく身近で、同じ高さから話していることがわかるようにカジュアルに話したかったんです。
ほかにも日産時代から「こずゑさん」と呼ばれていたので、呼ぶときはファーストネームでもいいと伝えました。これもグローバルマインドセットのひとつです。日産の社員は「(カルロス・ゴーン会長のことを)ゴーンCEO」とは呼ばず「ゴーンさん」と言いますし、社長とあがめられるより、距離感を縮めることで「ちょっとまずいかも」という不安要素をすぐに伝えられる雰囲気にしていたほうがコンティンジェンシーは働くだろうと考えます。堤防も穴が小さいうちは防げるといいますから、いろんなことを小さいうちに防いでいきたい。これだけ大きい施設を約70名で運営しているわけですから、何が起きても不思議ではないですよね。
ピンチはチャンス、opportunityと考える
―ほかにも社員に対して伝えたいことや、ご自身の仕事について心がけていることなどありますか
よく言っているのはどういう結果になっても「(いろいろな事態を)恐れないこと。それはopportunity(機会)である」とよく言っています。リーマンショックがあったときに、当時の日産の副社長に呼ばれ「大変なことが起こっていると思っているかもしれないけれど、これはshockではなくopportunityだ」「つまりこれでみんなゼロからのスタートになった。だったら我々が勝てるじゃないか」と言われたことが印象に残っています。「すごい考え方をするな」と思いました。日本人だと「リーマンショックがあった、景気が悪くなる」と落ち込みがちだけど、考え方次第ではプラスに考えられる。例えば、もし今後MICE施設が近隣にできる事態に陥ったとしても、それもopportunityとして考え、「この横浜一帯で私たちより施設を運営できる会社はいない、私たちがやろう」と考えたり、それを実際に口に出して伝えたりすることがモチベーションにつながると思っています。
また、トップがネガティブだと組織全体がネガティブになりますよね。これは部長クラスでも同じで、部長がネガティブだと部署の雰囲気まで変わるということは今までの経験で実感しています。先頭に立つ者のマインドセットに影響されて組織は大きく変わる。70人の人を扱っている中で、いかにプラス思考になっていくのかが大事だと思っています。
―ありがとうございました