「集客」から展示会のブース作りを語る 特別座談会

企業にとって自社製品・サービスの売り出し、PRの絶好の機会と言える展示会。だが、単に出展するだけではその恩恵を最大限に受けることはできない。成功する企業と失敗する企業の違いに着目したとき、大きな要素として「集客」がうまくいっているかどうかが見えてくる。人の心理とは不思議なもので、人が大勢いてにぎわっているブースには足を運びやすく、逆に閑散としているブースに入るには勇気がいる。にぎわいの最初のきっかけをうまく作れるかどうかこそが、展示会出展の成否を分かつ分水嶺とも言えるだろう。そこで今回、展示会のにぎわいづくりに関わるスペシャリスト3名を招いて、その神髄に迫った。

 

―最初に自己紹介をお願いします
蜂谷 ジールアソシエイツの蜂谷です。ジールでは展示会やイベントプロモーションの事業を行っています。割合は半々くらいで、イベントプロモーションは屋内外・時期を問いません。最近の展示会では東京ゲームショウやツーリズムEXPOジャパンなどでブースの仕事をさせていただきました 。
私は5年ほどデザイナーをしていて、今年から企画担当になりました。今は営業本部エクスペリエンスデザイン室でクリエーティブディレクターとして、企画戦略を考えています。

―デザイナーだった時と比べて、出展担当者との関わり方に変化はありましたか
蜂谷 以前より距離は近づきました。立ち回りは営業に近く、顧客と打ち合わせや擦り合わせを頻繁にしているので、多くの時間を顧客と過ごしています。

―続いて西田さん、お願いします
西田 乃村工藝社のクリエイティブ本部でデザイナーをしている西田です。当社では商業系、文化系、企業系といった3つの事業を展開しています。私は企業系の展示会やショールーム・博物館などの仕事をする機会が多いです。
仕事のほとんどが海外のもので、最近だとドイツのベルリンやケルン、中国の北京などの仕事を受けています。打ち合わせの場合は2〜3日で日本に戻って来れますが、展示会の現場に入ると1週間以上はかかってしまいます。

―以前は日本の展示会のデザイン・装飾も頻繁にされていたのですか
西田 数年前までは半々くらいでした。年々、比重が海外寄りになっていっています。

―では坂本さん、お願いします
坂本 ピクスでクリエイティブ・ディレクター/プランナーをしている坂本です。ピクスは映像制作会社で、長年ミュージックビデオやコマーシャルなどの仕事をやってきました。ここ5年ほどの間にプロジェクションマッピング(PM)の制作を始め、最近ではフレームにとらわれない映像制作も増えています。私が所属するP.Ⅰ.C.S. TECHはテクノロジーを映像的に捉え、空間演出の映像を制作する部署なのですが、ディレクターの役割はその大枠を考えることです。私も西田さんと同じく、ここ数年は海外展示会の仕事をする機会が増えてきています。

―坂本さんが出展者と関わるのはどのタイミングですか
坂本 展示会の場合は広告代理店を通さず、クライアントと直接やり取りをすることが多いです。施工会社さんに声をかけていただき、空間とコンテンツを一緒に提案するパターンもあります 。

出展者(顧客)に求めること

―次に、皆さんがお仕事をする際、出展者(顧客)に求めることや望むことをお聞かせください
蜂谷 顧客に求めることは何がやりたいのか、目標・目的をはっきりしていただくことです。軸がぶれないことが大切で、「この商品を売りたいんだ!」とか「来場者に感動して欲しい!」とか、残したい結果が明白だと助かります。

蜂谷 亮平 氏

―ではもし「全部やりたい!」と言われたらどうしますか
蜂谷 全体の相場だけを見て「何でもかんでも」だと内容もインパクト薄くなる一方で、中身が残りません。ですので、中身を絞って1点にパワーをかけた方がうまくいくと説得します。

―なるほど。西田さんはいかがですか
西田 仕事の満足度が高いのは顧客と仲間になれたと感じるときです。あくまで下請けで、指示されていると感じた仕事はうまくいきませんね。チームを組んで言いたいことを言えるのが理想で「展示物が多すぎて効果的ではないので、少し減らしませんか」といった提案もできます。そういった関係づくりも大事ですよね。打ち合わせも無駄なくするより雑談を交えつつの方が打ち解けて、結果的に楽しみながら良い仕事ができます。

坂本 互いに立場はありますが、その中で言い合える関係性は重要ですね。コミュニケーションがうまく取れたら結果がどうあれ良い案件だったと思えますし、改善点も見えてくるから次回はもっと良くなります。

蜂谷 同じ顧客と2度目の仕事をするときは、初回からどれだけブラッシュアップできるかが問われます。きちんと関係性を作れてあーでもない、こーでもないと言えないと前回を超えるクオリティは実現できません。

西田 後はブースをもっと公共の場と考えて欲しいと言いたいです。公園のような余白のスペースがあって、そこにベンチを置くとか。日本人は空白を嫌って無理やりにでも全部埋めようとしてしまいがちで、来場者にとって窮屈なブースになりがちです。

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