2018年、全国の高校から153チームが参加して「第1回全国高校eスポーツ選手権」が幕を開けた。仲間と協力し、時にぶつかり合い、eスポーツに情熱を注ぐその姿はまさに青春そのものだ。今回、主催で全国高校eスポーツ選手権の生みの親である毎日新聞社の田邊真以子氏と、共催として大会を盛り上げてきたサードウェーブの榎本一郎氏に、全国高校eスポーツ選手権にかける思いの丈を聞いた。
高校生の夢を応援するeスポーツ文化を
―昨年12月にオンライン予選が行われた「第1回全国高校eスポーツ選手権」ですが、どのような思いや目的があって開催することになったのでしょうか
田邊 去年のお正月に親せきが集まった際、高校生のいとこがeスポーツのリーグ・オブ・レジェンド(LoL)にハマってると聞いて、最近の高校生がそこまで熱中できるeスポーツを何らかの形で応援できないかなと思ったのがきっかけです。
毎日新聞社として関わるなら自分たちにしかできないことをしなくては意味がありません。これまで多くのアマチュアスポーツの発展を支えてきた毎日新聞社だからこそ、色眼鏡で見られがちなeスポーツに対する、学校の先生や親御さんの理解を促進する力になれるのではないか、きちんと枠組みを敷いて高校生の夢を応援できるのではないか。そんな思いに駆られてスタートしました。
―7月には選手権開催の告知が行われましたが、凄いスピード感ですね
田邊 必要とされているのは“今”だと感じたからです。1年後、2年後では遅すぎて、会社に対しても「毎日新聞社じゃないとできないことがあって、今やらないと意味がないんです!」と説得しました。
―その後、どのような経緯でサードウェーブが共催となったのでしょう
田邊 やる気だけはありましたが、eスポーツの知識は足りておらず、ゲーム業界にもツテはありませんでした。なので、ひたすらeスポーツ関連企業やゲームメーカーに電話してアポを取り続けました。
―そのうちのひとつがサードウェーブだったというわけですね
田邊 4月にサードウェーブのグループ会社であるE5 esports WorksがLFS(ルフス)池袋 esports Arenaをオープンすると知って、見学を申し込んだんです。そこから榎本さんに話が伝わったらしく、いざ見学に行くとサードウェーブのえらい人がずらーっと並んでいるという(笑)。
榎本 毎日新聞社がLFS池袋を見学したいと聞いて嬉しかったんです。サードウェーブにはeスポーツを日本の文化にしたい、ブームで終わらせてはならないという思いがあって、そのために事業計画を立てて投資も行っていました。なので日本の文化の担い手である毎日新聞社の名前を聞いた時には心が躍りました。
田邊 eスポーツに関わりたい企業がたくさんある中、温かく迎えていただき光栄です。企画書を見せる機会もないかもしれないと危惧していたのですが、皆さんがいらっしゃったので恐る恐るプレゼンさせていただきました。
榎本 まだフワフワした内容ではありましたが、高校生や彼らを取り巻く大人に対して一石を投じたいという田邊さんの思いはしっかり伝わりました。田邊さんの企画書は私の考えに近く「こいつ俺のプレゼンをどっかでパクったな」と思わず勘ぐってしまうほどでした。
田邊 いやいや(笑)
榎本 それだけ似通ってる部分があったということです。ビジネスをやっていると、稀にこういうことが起きます。長くまじめに続けて、「こんなことが起きたらいいな」と強く思って行動していると、ある時それが本当に起こる。私の場合はそれが田邊さんで、自分がやろうとしていることは正しかったんだと思えました。
田邊 私も、こんなことがあるんだなって思いました。榎本さんに会う前にもいろんな会社を回ったのですが、私から見たらeスポーツに熱心そうな会社でも、実際に話を聞いてみるとまだ様子見の段階と言われることもしょっちゅうで。「ゲーム業界がまだ本気じゃないのに、本来部外者である私たちが空回りしてもしょうがない」と思うこともありました。時期尚早ではないかという思いと、それでもやりたいというジレンマを抱え、立ち止まりたくない一心でとにかく会社訪問だけは続けていて。だから榎本さんたちに出会えて本当に嬉しかったです。
榎本 私の座右の銘に、プロ野球の元監督の野村克也元氏によるの「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」という言葉があります。負ける時には必ず理由があるけど、勝つ時には理由がないことがあるというものです。ビジネスも同様です。真面目にやっていると、たまにご褒美がもらえるんです。