【対談】毎日新聞社×サードウェーブ「第1回 全国高校eスポーツ選手権」

本気だからこそ、時にぶつかり合う思い

タッグを組むことが決まってから、企画を形にするまではどのような流れだったのでしょうか

榎本 共催のオファーを受けた翌週にはキックオフミーティングをしました。毎日新聞社のトップの方々にもお会いでき、腹を割って話せたのも良かったです。しかし現実的なところではゲームタイトルのIPホルダーとの調整、会場選び、スケジューリング、決めなくてはいけないことが山積みでした。田邊さんも5月の段階では2018年の夏に大会をやりたいと言っていて「まだまだeスポーツというものを分かっていないな」と。

田邊 当時はそれほど大きな規模を想定していなかったんです(笑)。オフライン大会を開いて、LFSで決勝ができたらいいなと。人数も30~100人くらい参加してくれれば十分で、まさか153チームが参加するような大会になるとは思いもしませんでした。

榎本 そこはボタンの掛け違いがあったのかも(笑)。私は学生時代に野球をやっていたので、高校生が目指す大会=甲子園という先入観がどうしても。ただ、甲子園のような文化にしたいとは本気で思っています。選手権の発表後、IT業界の先輩から「榎本、いい仕事したな」と言っていただきました。長くビジネスをしていても、自分たちがパイオニアになって大会を創設する機会に恵まれることはそうありませんので。第1回をやる以上は100回までやらなくてはと思っています。

田邊 責任やプレッシャーも大きいです。会議の席で榎本さんにたまに「怖いな」って言われることがあるんですけど、それは絶対に失敗できないからで。ヘラヘラしてたら良い大会なんて作れっこありません。

榎本 田邊さんの自分の意見をきっちり伝え、納得がいかないことに対しては妥協しない姿勢はサードウェーブにとっても良い刺激になりました。

―IT業界やゲーム業界とは異なる視点を持っているのも新鮮だったのではないですか

榎本 そうですね。ゲーム業界はとにかくプレイヤーファーストで、会社の在り方としてそれは間違いではないのだけど、それだけでは文化を作れない。コミュニティの外に出て、世間から正しく見てもらうためには今までとは異なるアプローチが必要なんです。田邊さんはサードウェーブに対して「それでは先生たちに理解されない」とか、「親御さんがもろ手を挙げて賛成してくれない」といったバランス感覚に秀でた意見を出してくれます。

ジャンプやロケット飛行ができる車でサッカーをする「ロケットリーグ」はシンプルなルールであるがゆえに、テクニック勝負となる(ロケットリーグ ⓒ 2015-2019 Psyonix Inc. All rights reserved.)

田邊 父が高校の教師をしていて、しかもゲームをやらない環境で育ったのが大きいんだと思います。過去の自分はゲームをネガティブに捉えていた部分が少なからずあって、じゃあ今はどうして違うんだろうって。その要素を1個1個洗い出していく。選手権に出場する高校生とは真逆に位置しているからこそ、サードウェーブのゲーマー的視点と中和させることができるのだと思います。

榎本 その中和がなかなか大変で。

田邊 どちらの意見も大事なのはお互い分かっているんですよね。ただその割合が7:3なのか6:4なのかが難しい。

榎本 落としどころがね。会議の席でサードウェーブの社員同士が議論していたら、田邊さんに怒られたんです。「そっちの意見はそっちでまとめてきてください」って。

田邊 時間が迫っていたので(笑)。スケジュールをきつめに設定しているので、この日までに決めて発表しなきゃって。

榎本 発表したはいいけど、実際は思ったより大変だったり。部下に「榎本さん決めちゃってください」って言われたときは思わずカチンときちゃった。

田邊 でも「時間がないしこれでいいよ」とならないのは、共催がサードウェーブで良かったと思う瞬間です。じっくり時間をかけて考えているからこそ、発表した時にSNSなどで得られる反応に手応えを感じます。期待の声にもっと応えたくなって、どんどん自分たちの中でのハードルが上がっていきます。

(この対談の続き「学校の協力、親の理解」、「高校生を応援する最強の布陣」、「新たなeスポーツの歴史が幕を開ける」 は『EventBiz』Vol.14にてお読みいただけます)