EventBiz vol.15 特集「映像×テクノロジー 最新イベント演出から探る」掲載
『映像演出』。テクノロジーの進化と比例するようにその表現はより鮮やかに、より斬新なものが生み出されるようになった。見る人もまた次々と現れる新たな手法に、クオリティやさらなる刺激を求めるようになっている。
イベントにおける映像プロデューサーは果たしてどのように映像を捉え生み出すのか。数々の映像演出を手掛け、人々を魅了する作品を作り上げてきた弓削淑隆氏(ピクス/クリエイティブ・プロデューサー)に、映像機材に精通する石丸隆氏(シーマ/常務取締役)が独自の視点から切り込む。
空間映像体験、何を選ぶ?
弓削 4K・8K、VR・ARなど、映像の専門用語って意外に世間に浸透していますね。皆さんよくご存知です。
石丸 展示会でもVR体験に並ぶ長蛇の列をよく見ます。パーソナルな利用を目的として開発されたものであるがゆえに、一般的な認知度も高いので「これをイベントに使いたい」となりやすいのですが、不特定多数の来場者が集まるイベントという環境においてVRが、列に並んでまで見るほどの訴求価値を提供できているのかと実は疑問に思っていて。
弓削 確かに、VRの世界に一人で行って楽しむことはその場にわざわざ来なくともできますからね。ただ、イベントでも使い方次第で効果的になります。例えばVRゲームをプレイ後、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を外すと目の前にはゲーム内で獲得したアイテムの実物が。それを記念に貰えたら嬉しくなりませんか。現実とバーチャルのスイッチができるのもVRをイベントで活用する面白さの一つです。
また、今や展示会でVRを使うことは珍しくないですが「Oculus Rift DK1」が出た当時は、HMDを装着してVR 体験をしているビジュアルそれ自体が新鮮で面白かった。海外の展示会で仕事をしたときに、そのようすが他の来場者にもよく見えるよう大きなモニターに映したりして、集客につなげました。海外の方はノリも良いので、それを見て体験したい人がたくさんいましたね。
石丸 なるほど。人が並ぶからこそさらに集まるということですね。イベントで映像演出をするときに意識していることは何ですか。
弓削 僕らはミュージックビデオやテレビCMの制作も手掛けていますが、それらの映像制作とイベント映像制作の大きな違いは、映像が情報伝達だけでなく、イベント参加者にどのような体験価値を提供できるかということまで考える必要があることです。空間を構成する映像には、参加者がディスプレイの前で集中して見るためのものや、演出効果として環境の中に存在しているものがあります。
また、イベントが開催される場所や環境によっても選ぶ演出手法は変わってきます。3Dプロジェクションマッピング(PM)を実施したいという相談をよく受けるのですが、暗くできない場所であったり、投影しても見づらい場所であれば狙った効果は出ないので別の提案をします。
石丸 イベントの空間体験において映像演出は必須要素と思っていますか。
弓削 もちろん映像の力を信じているので、映像が活かせるところは映像が演出の中心になれば良いと思いますが、実は映像だけにこだわっているわけではありません。
以前、国際フォーラムの周年記念イベントで施設内の壁面にPMをしたいという要望があった際、プロジェクターを持ってテストしたのですが、環境光が明るかったこと、さらに同施設の特徴でもある波打つ格子状の壁にPMは適さないと判断し、別の視点から空間演出を画策しました。
僕らが考えたのは「施設の気持ちの良い空間を再認識してもらう」というもの。そこは船底型の大屋根のもとに広がる美しいアトリウム空間だったので、空間を巨大な水槽に見立て、来場者にそこに入り込んだかのような感覚を体験してもらうことで、改めて「こういう場所だったんだ」と感じてほしかったんです。その演出の中心になったのが「空飛ぶイルカ」。独自に開発したものです。
石丸 かなり大きいですね。本物のイルカより大きい。
弓削 実ははじめはもっと小さいものをつくる予定だったんです。バルーンで浮いているのですが動力はプロペラではなく、本物のイルカのように尾びれで空気を掻いて進む仕組みなので、小さいと動力が足りず風に流されてしまう。流されないサイズになるまで試行錯誤を重ね、気付いたら6メートルにまでなってしまいました(笑)。ですが大きさを感じるというのはリアルならではの、心が動かされやすい体験でもありますね。
我々は映像制作会社ですが、その先にある体験価値をつくることにこだわっています。
時間と空間のコントロール
石丸 コンテンツを制作する上でのポイントは何でしょう。
弓削 例えばイベントで、映像コンテンツを見せたいという話になったら、まず「映し出す環境はどんな環境ですか?」と質問するところからスタートします。イベント参加者はどんな動線で、どんなタイミングで映像を見ることになるのか。周囲の照度は? 音の大きさは? こういったことを踏まえた上でコンテンツをつくりはじめます。
イベントによっては地域や来場者のタイプ、年齢層や会場までの道のりのことまで考えます。このリサーチは欠かせないんです。
石丸 何を見せるかよりもまず、空間の基本情報が先なんですね。
弓削 クライアントが伝えたい・見せたいことはもちろん、メッセージとしてコンテンツの中で表現しますが、より効果的にするためです。
さらにイベント全体の流れを含めた空間の設えを整え、体験価値を設計することを僕らは“体験設計”と呼んでいます。
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