未来のイベント映像
石丸 未来についても聞きたいです。弓削さんが予想している今後の映像業界のイメージってあります?
弓削 正直、日進月歩でテクノロジーは進化して行くので未来という言葉は難しいですが未来を感じたプロジェクトでいうと「リアルタイムトラッキング&プロジェクションマッピング」ですね。作る側としても常に未来を感じながら関わりました。よくライブなどで踊っている人の体にマッピングしているのを見ると思いますが、あれはダンサーが映像に合わせて動いています。これまでのプロジェクターは30~60fps※しか映像を出せなかったから早い動きに対応できなかった。一方でハイスピードプロジェクションは1920fps。リアルタイムでトラッキングして激しい動きをする人に追従してマッピングできるんです。このシステムをメーカ側と共同で開発しました。
存在を初めて知ったとき、オリンピックやスポーツの分野でこの技術を活かせると思いました。身体のひねりに合わせてマッピングで追従することも出来ます。人の動きをビジュアライズして、今後スポーツ教室やダンス教室に通おうと思っている人に対し、エンタメ要素のあるレッスン体験を実施してみても面白いでしょう。さらに人の動きをセンシングしてデータ化したものを可視化できるようにすると、人の能力を引き出せるし、楽しみ方も広がります。映像は見るものから、人のさまざまな能力を拡張するものになっていく。そんな未来を感じます。
石丸 私も展示会で見ましたが、随分前の初期のシステムはプロジェクターの周りにたくさん機材が付いていた記憶があります。どんどんコンパクトになり運用性も向上していますね。
弓削 技術自体は以前からあったものの展示会で披露してもその良さが伝わらず、開発者はどう活かすべきか悩んでいました。せっかく生まれた種なので、クリエイターとともに世の中に必要とされるものに変えていきたいという要望があり、僕らはそれに応えるべくこのプロジェクトに参加したのです。
単なるテクノロジーのすごさアピールにならないように、ライブ演出をメインにしつつも、来場者が参加して体験できるような工夫をしました。
石丸 たしかに映像って一般の人からすると体験がすべてで、技術的な話って正直無くてもいいんですよね。それをどう活かして「魅せる」かが注目される。
クライアントが新しいことにチャレンジしたいと思っても、トライ&エラーのエラーまでプランとして想定しているかも重要です。
弓削 開発への思想って大事ですよね。どのビジネスでも数年で変わっていく中で、現状で満足せずに新しいことにチャレンジしている企業がリーディングカンパニーとして生き残っていきますが、開発思想の中に、すぐに結果につながると思い込んでしまう考えがあるとうまくいかないことが多いですよね。トライ&エラーを開発の一部と考えられるかどうか。
新しいチャレンジだと実績が無いからといって、動かずに考えばかりが先行すると前に進みません。進みながら考えることは重要です。特に体験をつくることは、やってみないと誰も判断できないんですよね。もちろんトライする側としては良いものをつくる裏付けがあります。でもそこに至るまでの過程にもすごく価値があるんです。そのような事を理解してもらいながらクライアントと歩んで行けると理想ですね。
石丸 一般的には、ハードもソフトも後から出たものがちょっと良くなっているものですが、やはり二番煎じ感は否めなくて、少々不揃いでも、一番初めに新たな体験を提案し実施できたところはその先もリーディングクリエイターとして、クライアントにも大きなメリットがあるように感じます。だからチャレンジさせてくれるクライアントって本当に貴重。
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