【寄稿】グローバル視点で考えるブースデザインの課題と未来

オクタルミナのパッケージブース © expofair GmbH, Berlin / Sebastian Greuner

「基礎小間」の多様化

見本市のパッケージブース(以下、「基礎小間」)は八角形のアルミ柱を用いたシステムブースをイメージする方が多いだろう。これは世界共通でもあるが、ヨーロッパでは「基礎小間」の形も多様化している。

様々なアルミシステム材を大量に所有している施工会社があるヨーロッパならではだが、基礎小間に使用する部材を変えることで、見本市の差別化やイメージアップにつなげることができる。

以前、パリの「Interfiliere」という見本市でブースを施工した際、基礎小間の独創的な形に驚かされた。Interfiliereのパッケージブースは床上げがしてあり、壁面には間接照明が仕込まれていて、織物のトレードショーのため壁に展示用のバーとハンガーが付いていた(オプションもあるのだろう)。全体を暗くした見本市会場の中で、基礎小間がブティックのような雰囲気を漂わせていた。パリではファッション関連のショーが多いため、差別化を図る意味もあるのだろうが、「Premiere Vision」や 「Texworld」などでもそれぞれ違った装いになっている。

新しい部材の購入にはコストがかかるが、運営側も基礎小間デザインで差別化を図るメリットを理解して施工会社と複数年契約を結ぶことができれば施工会社側も安心して新しい部材を購入・展開できるようになるだろう。

 

「ファブリックフレーム」について

欧米で大型テントの天井で布が使われ「テンションファブリック」や「ストレッチファブリック」と呼ばれるようになった。その後、見本市のブース造作でも大型の出力布が使用されるようになり、縁にシリコンを縫製してアルミフレームで簡単脱着出来るよう進化した(以降シリコン付き布をアルミフレームに付けるシステムを「ファブリックフレーム」と呼ぶ)。今や欧米では大サイズの出力面はファブリックフレームを使用する手法が定着している。

日本では長らくファブリックフレームシステムは印刷機やメディアの輸入、シリコン縫製、防炎申請などの難しさから普及が遅れていたが、ここ数年で導入する会社が急激に増えている。これに関しては展示会業界よりも店舗装飾業界の普及速度が早いが、施工・撤去の簡易性や再利用の利便性から、展示会業界でも今後さらに普及していくことは間違いないだろう。

 

ユーロショップの役割 

3年に一度ドイツ・デュッセルドルフで開催される店舗設備・イベント資材の見本市「ユーロショップ」。 2020年度は約13万m²の展示面積に57か国から2,200社以上が出展した。 

「3年に一度」の開催ということもあり、各出展者の見本市へ取り組む姿勢は真剣そのもので、普段見本市 のブース設営として裏方にまわる業者も出展者として多く出ているため、店舗・イベント業界のリーディング見本市として注目度も高い。この見本市では数々の新しい製品が発表されるが、オクタノルム社も1968年の第二回目ユーロショップで創設者のハンス・シュテーガーが八角形のポールとテンションロック付きビームのシステム部材を初めて公にした。その後この画期的なシステム材は一気に世界中の見本市市場に広がったが、インターネットの無かった50年以上前に世界の人々に製品を見せる場としてユーロショップは当時から非常に重要な役割を担っていた。 

オクタノルム社の発展はユーロショップ無しでは語ることが出来ず、第二回目以降欠かさず出展しているが、製品の開発、カタログや Webサイトの更新、ショールームの模様替えなども、ユーロショップに合わせてスケジューリングしている。世界140か国以上から約10万人のビジターが来場する同見本市は入場チケットも高額で事前オンライン割引でも1日券が60ユーロもする。会期中のデュッセルドルフのホテルは通 常の2~3倍の価格は当たり前で、同見本市がデュッセルドルフの街にもたらす経済効果ははかり知れない。これだけ人気の見本市なのだから、毎年開催にすればより儲かりそうだが、開催頻度を増やせば出展者はブースにかけられるコストを抑えざるを得ないため、広大な会場のスペースは埋まらないかもしれず、海外からの来場者も数が減り、見本市のブランド力は低下するのかもしれない。

ユーロショップ1972年のオクタノルム社ブース

 

メーカーとしてのこだわり

アルミモジュールシステムが誕生し見本市業界で使用されるようになって半世紀が経った。その間インターネットの普及とともに見本市の存在意義が不安視される時期もあったが、そのような心配をよそに見本市産業は拡大を続けている。 

デジタル世代は、インターネットを活用することで最小の人間関係とやり取りで最大の効果をあげようとする。会社や製品の情報はインターネットで調べることができ、最短で目標ブースへ訪れ具体的な話ができるようになった。テクノロジーの進化が新しい消費者行動を生み、誰にでもわかる不特定多数の人々へ向け た物から、より専門的でパーソナライズされた製品・デザインが好まれるようになっている。その上で、展 示会のデザイナーにも「顧客の顧客」 をよく理解した上で、ターゲットの来場者を惹き寄せ、印象に残るブースデザインの提案が求められている。 最近は木工やファブリックと組み合わせるアルミシステム製品の需 要が高まっている。ユーロショップ2020年のオクタノルム社のブースを見ても、アルミがほとんど布や木工でカバーされ、内部で強度を保つ役割をしている。それなら木工だけでよいのではと思いがちだが、木工だけでは柱を減らしたり高さ6mの壁面を作ったりするのは難しい。見本市業界が拡大する中、「エコロジカル」な考え方も根付き始め、 ヨーロッパでは見本市終了後に廃棄できるゴミの量を制限しようという動きもある。今後は高級感があり、かつ再利用出来るブース造作が求められていくだろう。 

ユーロショップ2020年のオクタノルム社ブース

グラフィック面においては、印刷機械の進化でサイズが巨大化し、 ファブリックへの高画質出力が可能になった。LED の進化はグラフィック面を内照式にし、LED ビジョン の進化は動く映像を簡単に壁面に埋 め込めるようにした。 

時代とテクノロジーの進化に合わせて、見本市のブースデザイン、資材、装飾方法も変化している。われわれは見本市、イベント、店舗装飾の分野においてエコロジカルで革新的なシステムを広めることを目標としている。時代の変化に合わせ顧客の個性と創造の自由に対する欲求をシステムの利点とどのように組み合わせるかが鍵で、そのような製品の開発と普及が展示会・見本市をより魅力的にするために重要・不可欠であると信じている。

瀬戸 健之介(オクタノルムジャパン 代表取締役)

*「EventBiz Vol.18」掲載記事を再編集