オンライン展示会はリアル展示会に取って代わるのか

新型コロナウイルスとオンライン展示会の台頭

新型コロナウイルスにより展示会が開催されなくなり、しばらくが過ぎた。毎年春先にはスーツを着たビジネスマンで賑わっていた東京ビッグサイトや幕張メッセ周辺も、今では閑古鳥が鳴いている。

2020年3月に開催が予定されていた展示会は49件、4月は111件。合計160件あったはずの展示会はすべて中止か延期となった。5月の展示会も壊滅状態であり、公式なアナウンスを出していない展示会もあるが、60件近くの展示会が中止・延期となる見込みだ。

それ以降の展示会についても開催の目途は立っていない。安倍政権が4月8日、7都府県に対し発令した緊急事態宣言の期間は5月6日までとされているものの、延長に制限はなく、仮に終了したとしても大規模イベント開催には厳しい世間の目が向けられることは想像に難くない。

このような先行き不透明な状況にあって、展示会産業では一つの大きな流れが生まれている。それがオンライン展示会の開催だ。

展示会の中止により人の消えた幕張メッセ(3月10日撮影)
オンライン開催の主体は主催者 or 出展者

展示会のオンライン開催には大きく、2パターンが存在する。展示会の開催を中止せざるを得なかった主催者が、公式サイトなどで展開するパターン。そして、出展する展示会がなくなってしまった出展者が独自に行うパターンだ。

前者の例では、4月に開催予定だったIT関連見本市「Interop Tokyo 2020」ほか4展は6月30日まで公式サイトでオンライン開催を実施。出展予定だった企業の新製品情報を掲載し、資料のダウンロードや動画の閲覧をできるようにするほか、定期的なオンラインセミナーも配信する。

後者の例では、2~3月に開催予定だった「第47回東京モーターサイクルショー」「第36回大阪モーターサイクルショー2020」が中止となったことを受け、出展者のHondaがウェブ上で「Hondaバーチャルモーターサイクルショー」を開催。公開予定だった「Hondaブース」と「Dream Networkブース」および、二輪出展車両29台をウェブ上で再現した。

また、こうした企業や団体の動きに乗じて、オンラインイベント開催サービスやツールの動きも活発化の傾向を見せている。

Interop Tokyo 2020 オンライン
Hondaバーチャルモーターサイクルショー
身に染みる「人と会う」大切さ

企業の新製品PRの場がウェブ上に移るにつれ、「オンライン展示会はリアル展示会に取って代わるものなのか」という疑問が生じる。確かに、場所や時間、時勢を問わず開催できる点はオンラインイベント最大の強みと言える。実際、新型コロナウイルスにより外出すらままならなくなった人々の生活や社会活動を支えているのは、インターネットによるところが大きい。

しかし、だからと言ってリアル展示会が不要になった訳ではない。このような非常事態だからこそ、「早く人と会って話ができる社会に戻ってほしい」と誰もが強く望んでいる。そして、それこそが展示会の本質だ。

精巧に作られた3Dモデルや、事細かに書き込まれた仕様書よりも、担当者の一言が購入の決め手になることがある。実物を目の当たりにした時の感動や衝撃が、予算や計画を超越して契約を後押しする。それはバーチャルにはない魅力だ。

それに、リアル展示会には様々な出会いがある。目的のブースを一通り周り、さあ帰ろうというときに思わぬ出展者と出会い、自分でも気づかなかった「本当に欲しいもの」が手に入るかもしれない。素晴らしい出会いとは、いつどこに転がっているか分からないものだ。

「ここでしか」聞けない情報収集も、展示会の醍醐味
また会える日まで

リアルにはリアルの、バーチャルにはバーチャルの、それぞれ良いところがある。新型コロナウイルスによる日常の崩壊は、私たちにそんな当たり前のことを再認識させてくれた。

この未曽有の大災害がどのような終息を見せるのか。それはまだ誰にも分からない。だが、一つだけ言えることは、この苦難の時代を、ただ辛かった思い出に変えてはならないということだ。

私たちが子に、孫に、今日のことを話すとき、それは「いかに工夫と知恵で困難を乗り越えてきたか」という希望に満ちた話であるべきだ。ITを駆使し、出来ることはオンラインで代替し、諦めることなく耐え忍ぼう。そして無事に平穏が戻った暁には、人と人とのつながりを、目を見て話せる幸福を、思う存分謳歌しよう。止まない雨はない。雨の後には虹がかかるだろう。