▽5. MICE・展示会産業関係者にとってのビジネス・チャンスとは
では最後に、MICE・展示会業者にとって、どのようなビジネス・チャンスがあるのかを考えてみよう。大阪・関西万博は、開会まで5年以上あるので、今後、博覧会実施に伴う一般規則、特別規則等の公表や決定すべき事項が多々あるので、未確定部分が多いことを知っておかなければならない。常に、経済産業省や博覧会協会の動きをフォローする必要がある。
即時に対応できる準備を整えておくことが望ましい。
1) 対象となるMICE・展示会産業関係者とは
ここで言うMICE・展示会産業従事者とは、MICEや展示会を組織する(主催する)企業、付随して関係するデザイン・装飾企業、電機関連工事企業、アテンダント(コンパニオン)、事務局員、通訳等を派遣する企業、催事企業、清掃・警備企業、輸送・通関企業、印刷企業、設備レンタル企業、広告・宣伝企業、レストラン・売店企業等を含むものとする。
2) 万博ビジネスに参入する際の心構え
1992年セビリャ万国博覧会や韓国での1993年太田世界博を経験して、わかったことは、
* 万博・国際博を経験した人が、しない人より交渉や意思決定で優位に立つ
* 万博・国際博覧会についての知識の多い人は、少ない人より交渉や意思決定で優位に立つ
* 大型の登録博を経験した人は、小型の認定博を経験した人より交渉や意思決定で優位に立つ
* 万博は、国家プロジェクトであり、各種ルールが存在する。ルールに従って、準備が進められる。国(経済産業省等)や博覧会公社(2025年大阪・関西万博の場合、公益社団法人日本国際博覧会協会)が強い権限を持つことを理解すべきである。
* 万博は、後述のように展示会とは相当異なる
したがって、万博・国際博を大いに勉強する必要がある。
万博関連の書籍は多数あるが、比較的最近に出版された下記3冊を推薦する。万博業務担当者にとって必読書である。
① 「地上最大の行事 万国博覧会」 堺屋太一著 光文社新書2018年7月発行 840円 著者は大阪万博を推進した功労者の一人。内容的に誇張された部分、正しくない部分、自慢話も多いが、万博とは何かを知る上で役に立つ。
② 「万博の歴史」 平野暁臣著 小学館発行 2016年11月発行 1500円 内外の万博や国際博を手掛けた代表的な空間プロデューサー。この本を読むと万博の歴史がわかり、万博についての理解が深まる。
③ 「万博入門」 平野暁臣著 小学館発行 2019年6月発行 1500円 上記②の著者と同じで、万博の歴史を振り返り、21世紀の万博のあり方を考える書籍である。
3) アプローチ先を考える
万国博覧会には、多くの工事や業務が発生する。例えば、万博の会場建設や道路・橋梁などの土木建設は、著名な建築家、大手設計企業、大手ゼネコンが受注者である。パビリオンの建築となれば、内外の大手・中堅建設企業の出番となる。パビリオン内の展示装飾工事となると、内外の大手・中堅・中小のディスプレー会社や電気工事企業が受注者と考えられる。パビリオンの運営となるとアテンダント・タレント・通訳派遣、警備、清掃、レンタル、印刷、広報、催事関連企業の仕事となる。したがって、上記パビリオンの建設・運営を行う事業主体とその監督官庁・スポンサーをチェックし、常にその動向をフォローしながらアプローチする必要がある。
日本の場合、電通とか博報堂とかADKホールディングスのような広告代理店が介在するケースが多い。極めて日本的な特徴であるが、歴史を振り返れば、広告代理店の存在の重要性が理解できる。
では何故広告代理店が、博覧会となると登場するのであろうか。以下は筆者の推論である。
1970年の大阪万博の開催が決定された時は、全く初めてのことであり、ほとんどすべての人は、素人で五里霧中であったことだろう。その中で、少数のプロデューサーがコンセプトを考え、実行に移すことになるが、その段階で、プロデューサーの考えを忠実に実行に移す能力のある一群のグループが必要とされる。その当時、これらの業務を遂行する能力を持った人材を抱えている会社は、広告代理店しかなかったのではなかろうか。広告代理店は、確かに広告宣伝業務、催事・イベントの組織に優れているし、プレゼンテーションをさせれば、説得力がある。さらにクリエイティブでかつフレキシブルである。大阪万博でうまくいったこともあり、その後、1975年の沖縄国際海洋博、1985年の筑波国際科学技術博、1990年の国際花と緑の博覧会、その間相次いで開催された国内博覧会、福岡アジア太平洋博覧会、名古屋デザイン博、横浜博、三重祭り博、その他ジャパン・エキスポ指定の国内博覧会、さらに海外での万博、国際博覧会への参加業務を通じて、経験とノウハウを身につけるに至ったのである。
実施主体のスタッフにとって、博覧会業務に従事することは、最初で最後の経験であり、おそらく2度と同じ経験をするチャンスは、ほぼ皆無に近いことだろう。実施主体にとっては、自分ですべてやるというようなリスキーなことは決してしないであろうし、それよりコストは高くても、確実、安全で、合格点をとってくれる代理店にまかせようとするのは当然のこととなる。
しかし、今後は、MICE・展示会主催者、とりわけMICE主催者が大手広告代理店にとって代わるようになることを期待したい。
博覧会の場合、主催国と公式参加国の両方からアプローチする必要があるが、本稿では、2025年大阪・関西万博を考慮に入れ、話を進める。