4) 公式参加国・地域・国際機関へのアプローチ
公式参加国・地域・国際機関のパビリオンを①日本政府館、②パビリオンを独自で建設する国々のパビリオン、③日本政府のODA資金で援助を受ける主として発展途上国のパビリオンの3つに分類し、一つずつ見てみよう。
①日本政府館の場合
主催国日本の政府館について、大阪・関西万博でどのような形態になるのかわからないが、1970年大阪万博の時は、ジェトロが実施機関であった。愛・地球博の場合は、大手広告代理店A社であった。ジェトロは、日本政府館のアドバイザー・運営協力業務(スタッフ派遣含む。長久手日本政府館と瀬戸日本政府館に延べ8名の職員を派遣)と発展途上国の支援業務を担当した。オープンの4年前くらいには、具体的な実施機関が閣議で了解されることになると思われる。考えられる形態は、ジェトロのような政府機関か大手広告代理店に委託する方法であろう。その場合でも、主管官庁の経済産業省が意思決定に強い影響力を持つことを考慮したほうが良い。
②各国のパビリオンの建設
博覧会協会では、3つのタイプのパビリオンを想定している。詳細は、協会作成の下記図を参照のこと。
* タイプAは、主催者が参加者に敷地を渡し、参加者がパビリオンを建設。協会の想定では、公式参加国50カ国、政府自治体2、企業館9であり、それぞれの敷地面積、建築面積は下記の通りである。
* タイプBは、主催者がモジュール・パビリオンを建設。公式参加国17カ国、国際機関9を想定している。
* タイプCは、主催者が共同館を建設〈1つのパビリオンに複数の参加者が出展。公式加国82を想定している。
それぞれのタイプによってどのようにアプローチすべきかを考えてみよう。
出展形態 | 参加者のタイプ | 想定 参加数 |
敷地面積(㎡) | 建築面積(㎡) |
タイプA 敷地渡し |
公式参加国 | 50 | 500~4,000 | 300~2,400* |
政府・自治体 | 2 | 15,000 | 9,000* | |
民間企業 | 9 | 4,000 | 2,400* | |
タイプB モジュール渡し |
公式参加国 | 15 | 500~2,000 | 300~1,200 |
国際機関 | 5 | 500~5,000 | 300~3,000 | |
タイプC 共同 | 公式参加国 | 83 | 1,500~8,000 | 900~4,800 |
出典:博覧会協会ホームページ
・「タイプAの場合」
このタイプの公式参加国は、主として先進国及び比較的裕福な新興国・発展途上国となる。ミラノ万博では、52カ国がそれに当てはまり、大阪・関西万博では、50カ国を想定している。通常、各国は、実施機関を選定する。国によって異なるが、貿易振興機関の場合もあるし、観光振興機関もある。時には大統領府直轄というのもある。参加契約時には、実施機関が決定されているのが常なので、受注に関心のある企業は、その時点から、アプローチが始まることになる。パビリオンを建設し、運営するとなると様々な業務が発生する。
このうち、パビリオンの設計とパビリオンの装飾については、それぞれの国のアイデンティティをアピールすることが重要なので、多くの国は、自国で入札を行い、業者を決定することになるものと考えられる。建設工事は、自国で行うか日本で行うかどちらかであろう。セビリャ万博の場合、スペインで建設の入札を行った。決定後は、日本の企業等に下請けを出すことが考えられる。事務局員やアテンダントの採用は、一部は本国で、残りは日本で採用することになろう。セビリャ万博の日本から30名のアテンダントを派遣し、セビリャで
72名雇用した。その他警備清掃や広報・印刷等も日本で入札することになろう。
・「タイプBの場合」
モジュールの発想は、おそらく、合同館で一緒に展示することを好まない公式参加国や国際機関が希望するものと思われる。土地のボーリング調査やパビリオンの設計・建設工事が省かれるだけで、残りの業務は「タイプA」と同様である。国際機関については、財政状況が良好ではないので、支援するか否かは、日本政府が決めることになろう。
・「タイプCの場合」
「タイプC」が最もビジネス・チャンスがあると思われる。協会が提供する合同館のなかに入る国々である。主として、発展途上国で、協会では、対象国は83カ国を想定している。各国に提供されるスペースは、各国の要望にもよるが、200㎡〜300㎡程度と思われる。もちろん、一部の国は、もっと大きなスペースを望むかもしれない。
前述のように博覧会の主催国は、発展途上国の参加が容易になるために多額の予算を計上する。大阪・関西万博についても、2019年12月に、経済産業省からBIEに提出された登録申請書によれば、約240億円という巨額の予算が準備されている。発展途上国支援と一口に言っても、多くの検討すべきことがある。大阪・関西万博のタイムスケジュールから見て、協会は2020年度中には、「発展途上国の支援プログラム」の詳細について発表するものと思われる。何故なら、2021年度くらいから本格的に始まる公式参加国への出展勧誘の際に、必要とされるからだ。下記の点については、発展途上国のパビリオンでのビジネスを狙うMICE・展示会関係者にとって、重要なポイントなので押さえておいた方が良い。
例えば、発展途上国支援のルールを作る上で、いくつかの重要なポイントについて指摘してみよう。
発展途上国パビリオンについては、最初の構想から協力していくことができれば、新しい展開が開けよう。MICE主催者の中には、大手広告代理店の下請けから脱却して独自で業務全体を実施していこうという企業も現れつつある。展示会主催者は、MICE主催者と比して、博覧会業務についてそれほどの関心を示さないかもしれないが、展示会主催者の持つノウハウを生かす道につき、模索することも必要である。
* 発展途上国と言っても、特に貧しい後発開発途上国(Least Developed Country)もあれば、通常の発展途上国(Less Developed Country)もある。ODA(政府開発援助)を卒業した国もある。それらの国に対し、どのように扱うかという問題。
* どこまで支援の範囲を広げるか? 展示装飾、輸送費等だけに限定するのか、派遣費、広報・印刷費、ナショナル・デーの式典・催事等についても支援の対象とするのか等の問題。
* どのような方法で、発展途上国から協会に経費支出が請求されるのかも大きな問題である。すべて、当該国で支出され、それをそのまま請求される場合、不正や贈収賄の問題が発生する可能性もある。おそらく、可能な限り、日本で入札が行われるようなシステムを構築し、透明性が得られるようにしなければならないであろう。
* 日本で入札が行われる場合、一般競争入札になるのか指名競争入札になるのかも解決すべき問題である。
ビジネス・チャンスを狙う企業は、上記のようなことに留意し、博覧会協会の動向を常にフォローすべきである。