▼6.経済産業省が考えるべきこと
観光振興は、国土交通省・観光庁の仕事で、観光事業の実施機関として国際観光振興機構(政府観光局、JNTO)が存在する。一方、展示会産業は、経済産業省の主幹である。
MICE産業という言葉が良く使われるが、MICとEが縦割り行政によって分断されているのである。観光振興は、日本政府の目玉事業なので、国土交通省・観光庁の施策も充実しており、予算も十分であるが、展示事業は、経済的波及効果の大きさにも拘わらず、注目されず、経済産業省も、ほとんど何もやって来なかったと言えよう。貿易振興が華やかな時代は、輸出振興、輸入促進、ODA事業で多額の補助金が拠出された。東京国際見本市協会や大阪見本市委員会に対し、国際見本市の育成のため巨額の補助金もあった。しかし、現在はどうだろうか?ここでは、経済産業省は何をやるべきかを考えてみよう。比較的実現が容易な4つのことを提案したい。
1)官民挙げて、MIC産業・展示会産業の中長期ビジョンの策定をすること
今回のコロナ禍で、あれほど元気のあった観光振興、インバウンド振興、MIC産業の振興ですら、極めて脆弱であることが判明した。展示会産業にいたっては、オリンピック問題や延長問題とコロナ禍のダブルパンチを受けた。先の見えない未曽有の事態に対して、今こそ、官民を挙げて、短期・中期の業界の立ち直り策及び将来の発展ビジョンを策定することが強く望まれる。その際は、下記のことを考慮に入れるべきである。
① 関係省庁の縦割り行政を変える。
観光、MICは国土交通省・観光局、展示会は経済産業省の管轄であるが、垣根を取っ払って、協力して、MICE産業振興ビジョンを作成することが望ましいが、それが難しければ、少なくとも経済産業省のイニシアテイブで展示会産業振興ビジョンの作成することを強く望みたい。
② MIC関連団体、展示会関連団体でビジョン作成に関心のある団体の参加を促す。
③ 業界に関連する学会、大学、有識者の参加を求める。
将来的には、展示会産業を大学の講座・コースとして導入することを働きかける。
2)見本市統計の作成と見本市の経済的波及効果調査の実施
日本には、公式の展示会統計は存在しない。見本市・展示会の専門企業であるPOP社は、毎年、見本市統計を発表しているが、公式のものではない。統計整備の仕事は誰が行うべきかを考えると、必然的に、経済産業省となる。何故なら、日展協は、全見本市主催者をカバーしているわけではないし、日本貿易振興機構も展示会業務は、ごく一部にすぎないからである。経済的波及効果も同様に、経済産業省が行うべきである。この調査を行うと展示会産業の重要性が一目瞭然となり、誰にでも理解されるようになろう。
3)見本市の第三者認定の促進のために経済産業省の積極的支援
経済産業省のイニシアテイブで、2012年3月には、「展示会統計に関わる第三者認証制度の開始」というニューズ・リリースが発表され、制度が開始された。2012年度から2019年10月までに認証を受けた展示会件数は、わずか、延べ90件で、過去8年の平均件数は、11.25件と低調である。日本の展示会業界はドイツやフランスとは異なるのは事実であるが、基本的には、日本の展示会主催者は、クライアントである出展者の利益になることを行っていないと言えよう。展示会の来場者をカウントする場合、VISITOR数とVISIT数という方法があるが、同じ人が何日来場しても1人とカウントするVISITOR制度はわかりやすく、間違いが少ないので導入すべきである。
展示会の第三者認証が低調な理由として、審査費用が高いとか手続きが面倒だということが主催者からよく言われるが、基本的には、認証によるメリットが何もないことであろう。認証を取得しても、必ずしも後援名義が貰えるわけでもなく、経済産業大臣や経済産業省の局長レベルが開会式に出席するわけでもない。ましてや財政的なインセンテイブなどあり得ない。とすると、認証を受けても受けなくてもほとんど変わりがないことになる。後援名義や大臣・局長の開会式出席等すぐにできることから始めてもらいたい。その他のインセンテイブは徐々に考えて行けばよい。
4)優秀展示会・見本市の表彰制度の導入
経済産業省は、戦後多くの表彰制度を立ち上げてきた。輸出貢献企業表彰もしかり、グッドデザイン表彰もそうである。表彰制度など何を今さらという意見もあると思うが、展示会産業に対し、目立った支援を行っていない経済産業省が表彰制度を導入することに意義がある。展示会産業の重要性を関係企業と一緒に考え、実感することが必要なのだ。表彰対象は、展示会の国際化に顕著な貢献のあった企業、地方で新規に展示会を立ち上げた企業、展示会産業に貢献のあった個人・団体等々が考えられる。とりわけ地方での展示会開催の推奨は、主催者にとって、それなりのモチベーションにはなるものと考えられる。
以上、筆者の個人的な意見を述べさせていただいた。
以 上