ウィズコロナ・展示空間デザイン考 #1

ウィズコロナにおけるブースデザインのアイデアや考え方、今後の動向を展示会ブースなどを手掛ける、空間デザインのプロに聞く。

【第1回】空間デザイナーの未来は?
Designcafe™ 平澤 太 氏

見本市展示会通信 第836号/10月15日号 掲載記事を再編集)


Design Producer/Environmental Designer 平澤 太 氏

―出展者の現状はどうか

展示会に出展する会社にはフェーズがあり、大まかには①スタートアップの企業、②何年も出展し続け、プロダクトの知名度はあるが継続して売っていくため出展する企業、③誰もが知るグローバルメーカーで、新たに製品をローンチするため出展する企業の3つ。現在は新型コロナによってそれぞれの出展意欲にも違いが見られ、①はとにかく出展したい。②は様子見。③はよっぽど成長を見込んでいるカテゴリー以外では、わざわざリスクを背負ってまで出展しない。

例えば勢いがあるスタートアップのIT企業は、現状でも20〜30小間で出展することもある。そういったブースをプランニングしていて個人的に一番つらかったのは感染症対策のため、展示品を直接触ることができないこと。IT系の企業のサービスは、インターフェースがスマホやタブレットであることも多い。その場合、操作性や滑らかさを自分の指ではなく説明員の指を使うことになる。リアルかバーチャルかの議論もあるが、それ以前に人間の五感を駆使しないと良さが分からないものは世の中にたくさんあるにもかかわらず制約を受けていることが非常に問題。都度消毒するなど対応をしてでも、良いものはどんどん体感していかないと駄目だと感じる。

 

―展示会を開催していくためのアイデアは何か

イベントは空間に人がたくさん集まってこその世界だが、今は「集まらないように」といわれている。そのような状況で開催していくために、まずはキープディスタンスや消毒などの基本的な感染症対策は継続して行っていく。その上でデザインだけのアイデアではどうすることもできないことだが、例えば会期を延ばすというのはひとつの手だ。会期が3日と5日では、トータルの来場者数が同じ3万人だったとしても1日あたりの収容人数を減らせるからだ。主催会社側のコストの都合や会場スケジュールの都合もあると思うが、展示会という商談&リアルプロモーションの場は中堅中小企業ほど切実なので、ある程度現実に即したやり方を実践するべきだ。さらに、会場の空調もコントロール(陽圧、陰圧)も有効だと感じる。陰圧・陽圧をコントロールすることは、現在は飲食店でもやりはじめている。イベント会場でも行うべきだと考えている。

 

―空間デザイナーとしての今後の展望は

商環境から展示会まで、いろいろな業種の方と一緒にこの業界に携わっているが、展示会産業は今後、斜陽化していくと考えている。モノの売り方が変わり、プロモーションの仕方が変わってきたためだ。これに関しては新型コロナは関係がない。ともあれ空間をつくる私たちが生き延びていくには横にリンクさせていくしかない。すなわち展示会とショールーム、カンファレンス、店舗、バーチャルスペースというふうに。ひとつで完結させるのではなく、横で連携させながらポテンシャルを維持、あるいは高める流れは確実にある。そこに空間デザイナーの活路はあると思う。同時にきちんと勉強しない限り展示デザイナーに常設空間はつくれない。そうなってくるとピュアなクリエイティブの側面だけでなく、クリエイターをアッセンブルする能力、お金の側面、スケジュールマネージメントなど包括的な視野の広いデザイナーが求められてくるはずで、そういう流れが実際に起き始めている。例えば店舗デザイナーは、必要に迫られているゆえに比較的この手の能力を備えている人が多く、空間だけでなく建築も手がけるケースがあるが、展示会デザイナーはそもそも求められていないスキルとなり、とても弱く感じる。デザイナーが最も苦手であろう、お金の側面を例に挙げると、展示会出展ではお金の出どころの大半が広告宣伝費だ。広告宣伝費は一括で年度ごとに費用計上するが、店舗やショールームでは減価償却が必要になる。当然投資効果を求められるのでデザインに対してもシビアになる。また社会不安や不況下では真っ先に広告宣伝費が削減される。そういった違いを認識し、ジャンルをまたげるデザイナーを目指していくべきで、クロスオーバーに対応できるデザイナーは、これからももてはやされると思う。問題解決のスキルを携えながら、情緒的な提案ができること。ただパースが描ければ良いというものではない。