ウィズコロナ・展示空間デザイン考 #2

ウィズコロナにおけるブースデザインのアイデアや考え方、今後の動向を展示会ブースなどを手掛ける、空間デザインのプロに聞く。

【第2回】リアルに勝るものはない
丹青社 デザインセンター 野村 一樹 氏

見本市展示会通信 第836号/10月15日号 掲載)


カルチャー&コミュニケーションデザイン局第3デザインユニット クリエイティブディレクター 野村 一樹 氏

―現状をどのように捉えているか

リーマンショック以降、各企業はプロモーションにかけるお金を減らしたり、プロモーション手法そのものを変えるようになった。展示会出展への投資を抑える傾向もあり、そのような中、会場不足の問題や新型コロナの問題でさらに追い打ちをかけられた状況にあると感じている。特に新型コロナの問題は展示会の存在意義を根幹から揺さぶるようなできごと。

一方で現在はネットが普及し、現地に足を運ばなくとも情報が得られる時代になった。オンラインイベントなるものも散見されるようになった。この流れは必然だと思うし、新型コロナ対策という観点から見ても明確な答えのひとつだと考えている。ただし、モノを売る企業にとって、パソコンの画面越しですべての情報が伝わるかに関しては疑問があり、また参加する側のITリテラシーに依存することになるため、参加のハードルが高くなる場合もある。ゆえにリアルの展示会自体の需要はなくならないはずだ。さらに足を運んだときの高揚感や五感に訴えかける体験においては、リアルに勝るものはないと断言できる。

 

―これからのブースデザインはどう変わるか

会場内でも来場者数を制限したり強制動線を敷くケースなど、従来にない運営方法で開催することはこれからも考えられるが、こういった変化はブースデザインをする上でのヒントにもなる。会場内が来場者でごった返すことがないのであれば、自社ブースを目立たせるための高い位置のサインは不要になるかもしれないし、強制動線によって来場者が目的のブースに辿り着くまでの道のりが長くなることで、より速足でブースを通り過ぎるようになれば、足を止めるためのキャッチコピーを掲出するなど工夫する必要性も出てくるであろう。

加えて今後は、来場者の体験価値の向上がテーマになる。それをいかにしてブースデザインに落とし込むか。例えば、ソーシャルディスタンスを保ちながら多くの展示品を並べることで曖昧なブースになるくらいなら、思い切って展示品を絞り、ひとつのブースに対してひとつの体験コンテンツを表現するというようなシンプルで割り切った構成で体験価値向上のために予算を割くことも考えられる。

 

―空間デザイナーから見たバーチャル空間への関心はあるか

リアルの情報をバーチャル空間においても再現する「デジタルツイン」の考え方は興味深いし、現実ではあり得ないことがバーチャル空間では表現できる点にも可能性を感じている。現実のブースであれば構造計算や法令遵守を含めてデザインするが、バーチャルでは不要。サインが空中に浮いていても問題ない。一方で、今までやってきた建築の法規や知見などが活かされずにデザインできてしまうことに対するもどかしさや危機感はある。今後われわれは、空間デザインはもとより、展示や体験の価値をいかに高められるかという企画の能力を磨き上げるべきだと感じている。

オンラインは情報を最短距離で得られる便利さがある反面、自身の目的意識がないと入手できない。ツールとして活用できる点には期待しているが、思いがけない発見や偶発的なコミュニケーションはやはり、人が集まるリアルの中でしか起こりえない。