今年の後半、ワクチンン接種が進み感染拡大が緩和され特に秋以降は規制は徐々に解除され世界の展示会イベントは復活すると見込まれていたが7月に入り感染力の強いデルタ株による感染拡大でその目論見は少しずれる可能性が出てきた。特に国際展示会や規模の大きなイベントの再開は残念ながら来年に持ち越されるケースが増えている。特に東南アジアや米国の一部地域、欧州のドイツでその傾向が見える。そのため展示会復活の勢いは当初見込みより少しそがれる懸念がある。各地域の最新動向を以下に紹介する。
東南アジア:
7月以降感染者の急拡大で都市封鎖に迫られたり政府はワクチン接種を最優先に取組むと同時に規制を徐々に緩和しているが年内に国際展示会や大規模なイベントが復活するのは厳しい情勢となっている。
タイ:
展示会場を急きょワクチン接種会場にするなど対応した結果、9月に入り新規感染者は減少傾向となったが厳しい状況は続いている。そのため一定規模の国内市場があり国内又は一部海外からの出展者や来場者が見込める展示会は計画どおり10月~12月に開催予定になっているが、中には昨年から今年に延期していたが最終的にオンライン開催に止める展示会もある。これまで日本企業の出展が多かったPropak Asia, Food&Hotel Thailand, Intermach MTA Asia等の国際展示会は当初予定を延期していたが年内開催から来年(2022年)開催に変更している。このうちFood&Hotel Thailandは拡張された新会場(QSNCC:78,500㎡)で開催される。その他では9月予定のMedical Fair ThailandやWire Southeast Asiaも来年に延期されている。
シンガポール:
コロナ発生後全てのビジネスイベントは中止又は延期となった。一部のイベントは2021年後半に延期されたが大半の国際展示会や国際会議は2022年に延期されている。Gastech&Gastech Hydrogenは9月に開催予定だったが開催地がドバイに変更されている。
政府(STB)はコロナ対応で2020年に業界団体(SACEOS)とSafe Management Measures(SMM)プロトコールを策定してさらに大規模イベント参加者の安全確保を目的に主催者へのガイドラインSafe Business Events(SBE)も制定した。これに基づき政府はパイロット事業開催を許可して2020年11月にハイブリッドイベントTravel Revineが2021年1月にはPCMA Convening Leaders Conferenceが開催された。
MICEイベントの安全対策を強化するために官民連携してTechnical References(TR)84の導入も決めている。6月にはRX(旧Reed Exhibitions)とSACEOSが連携してSMFxIBTM Wiredを開催。政府機関(STB)はPCMAやUFIと連携してビジネスイベントの将来見直しに関するホワイトペーパーを発表した。
政府は人口の70%以上が2回ワクチン接種を完了したため8月19日からワクチン接種種完了を条件にMICEイベント参加者数をこれまでの500人から1000人に緩和した。ワクチン接種してなければ50人制限となる。この措置はライブイベントやスポーツイベントにも適用される。
なおSACEOSやAFECA会長を歴任した地元企業トップは今後の見込みについて「政府は遅くとも10月初旬までに人口の80%がワクチンン接種完了を目指しているので今年の末までには全ての分野ではないが大半を再開することになると期待している。しかし東南アジア各地で感染者が増加しているのでMICE復活は特にシンガポールでの展示会は着実に回復するがそのスピードは緩慢になるのでは。さらに来年には多くの国際展示会が開催されることになるので競争も激化すると見込まれ完全な復活は早くても2023年までになるのではないか」とコメントしている。
マレーシア:
感染者が急増する中で政府は経済再建にはワクチン接種による集団免疫が重要としているが業界団体(MACEOS)は政府機関(MyCEB)と連携して政府の計画推進に全面的に協力している。MACEOSメンバーの20施設はワクチンン接種会場の提供に協力すると同時にMACEOSはMyCEBと協力してワクチン接種会場で約150人のボランテイアを派遣している。
またMACEOSは旅行代理店協会、ホテル協会と連携して業界横断的な安全認証プログラムTravel Safe Alliance Malaysia(TSMA)を策定している。これはマレーシアへの訪問が安全だと海外訪問者にアピールしてMICEや観光復活につなげるものだ。展示会データベースEvents Eyeによると2021年8月からは12月までは51件の展示会が開催される予定で大半はクアラルンプールが開催地になっている。
香港:
国際展示会が多く海外からの出展者・来場者を見込めない状況が続き厳しい情勢が続いているが現地で最大の主催者である香港貿易発展局(HKTDC)は7月頃からオンライン開催に加えて展示会のリアル開催も強化している。しかし一部のリアル展示会では一般来場者も受け入れたり事前登録で入場無料バッジを提供するなど来場者の確保に努力している。さらに海外バイヤーにはオンライン商談会参加への特典を提供するなどの工夫で商談会を強化している。現地で事業展開するグローバル主催企業も食品・飲料(HOFEX)や宝石、ワイン(Prowine Asia)等有力な展示会についてはリアル開催を予定している。
深圳:
中国は昨年から感染を抑え込みながら国内市場が大きいため世界に先駆けて全国又は地域展示会についてはリアルイベントをほぼコロナ前と同じように継続して開催できている。
グローバル主催企業も中国では上海、深圳、香港等の主要市場でこれまでと同じく展示会のリアル開催を続けている。例えば2021年の前半でほぼ感染を抑え込むことが出来ている深圳の施設(Shenzhen World Exhibition&Convention Center)では6月までに18件の展示会が展示面積合計180万9000㎡で開催されている。
今年後半には47件の展示会が予定され展示面積合計は214万㎡と見込まれている。9月にはChina Cross-Border E Commerce Exhibitionが10万㎡規模で、China International Cultural Industry Fairが12万㎡で、10月にはGift Show(秋)が30万㎡で、11月には施設では初開催となるChina International Agricultural Products Fairが32万㎡で開催予定となっている。
米国:
当初CEIRは今年の後半から秋以降には州・自治体の規制も徐々に解除され展示会が復活すると見込んでいた。事実6月から先行するフロリダ州にネバダ州など各州で展示会が再開されるようになった。
例えばネバダ州ラスベガスでは6月にコロナ発生後に初めてトレードショウWorld of Concrete2021が開催され、7月にはシカゴマコ―ミックプレースではChicago Auto Showが、8月にはニューヨークのJavits Convention Centerで2020年2月以来初めてのリアルイベントとしてNY Now Summer 2021が開催された。
しかし経済再開が順調に進むと期待されていたが7月に入りデルタ株の感染増加で5000人以上のイベントンにはマスク着用と、ワクチン証明や検査結果証明の提出義務が求められる動きも一部では出ており最近では一部の展示会や会議について中止を決めるケースが出ているのが気になる。
例えば8月にオレンジカウンテイコンベンションセンターで予定されていたAmerican Association of Neurological Surgeons Annual Scientific Meetingはバーチャル開催に変更された。ニューヨーク市内で9月に開催予定だったNew York International Antiquarian Book FairとProgressive IMS Outdoors は中止。
同じ9月にJavits Centerで開催予定だったイベントの内Fancy Food Showのリアルは中止、オンラインのみ開催となりWorld Floral Expoも中止で2022年に延期された。
一方International Franchise ExpoやCOTRIEやMAGIC New Yorkなどアパレル・フアッションの展示会と10月にJavits Centerで開催予定のInternational Pharmaceutical Expo(Interphex)は今のところ予定どおりとなっている。なお10月開催のHandbuilt Motorcycle Show(オースチン)は中止に、Electrochemical Society Meeting(オレンジカウンテイコンベンションセンター)はバーチャル開催となった。
なお米国のその他有力なコンベンションシテイを見ると、例えばシカゴではすでに経済再開されイリノイ州内では施設のキヤパ制限は解除され現在すべての集会開催は許可されている。例えばマコーミックプレースで予定している展示会や会議を中止・延期にする目立った動きは目下出ていない。
ネバダ州では現在集会制限が解除されているがラスベガスのクラークカウンテイを含む12地域では7月30日からワクチン接種後でもマスク着用が義務付けられクラークカウンテイでは250人以上が参加するイベントの施設に対しては開催許可申請を求めている。
なおLas Vegas Convention CenterやSands Expoでは10月にはG2E,NAB Show,National Hardware Show等有力な展示会が11月にもAutomotive Aftermarket Industry WeekとThe SEMA ShowにIMEX America 2021が計画されている。
2022年1月には日本企業の出展参加や視察が多いCES2022が予定されておりいずれも今のところ計画どおりとなっている。なおCESの主催者CTAは2000社前後がリアルイベントに参加する予定で参加者にはワクチン接種証明を求めると発表している。
欧州:
欧州でもデルタ株感染拡大防止と経済活動の維持を目的に米国と同じくドイツ、フランスではワクチン3回目接種を予定、英国も検討に入っているとされる。
こうした中でEU域外からの出展者と来場者の比率が高いドイツの国際展示会主催者は特にコロナ感染の影響が大きいと見込まれる展示会については従来通りのリアル開催については慎重な方針を取っている。
なおその他MICE主要国を見ると英国では9月のInternational Confex(ExCel London)とSpeciality Fine Food Fair(Olympia London)に10月のThe Meetings Show(ExCel London)は予定通りに開催される。フランスでも日本で良く知られているMaison&Objet(9月、パリ)やMIPCOM&MIP Junior(10月、カンヌ)が、イタリアでもEMO Milano(10月、ミラノ)が計画通りリアル開催の予定になっており今のところ大きな変更はない。
ドイツ:
〇ケルンメッセ:8月のGAMESCOMはオンライン開催に、10月のANUGA2021は現地向け+オンライン開催に変更。
〇メッセベルリン:4月のInnoTransと9月のIFA2021は2022年に延期。〇メッセミュンヘン:10月のDrinktecは2022年に延期、10月のiba2021はオンライン開催に変更。
〇ドイツメッセ(ハノーバー):10月のLIGNAは中止。
〇メッセフランクフルト:6月のACHEMAは2022年に延期。9月のAutomechanikaは現地向け+オンライン開催に変更。10月のMusikmesseは2022年に延期。
11月のFranchiseExpo21は現地向け+オンライン開催に変更。
なおPaper world, Automechanika, intertextile, Beauty world等のブランド展示会についてはグループ会社が世界各地でリアル開催を予定している。
〇メッセデユッセルドルフ:10月のREHACAREは2022年に延期。8月下旬のCaravan Salon Dusseldorfに10月のA+Aと11月のMedica2021/Compamedはリアル開催予定。
〇ニュルンベルクメッセ:9月のEuropean Coatings Showは2023年開催に変更。関連会議はデジタルで開催する。
寺澤 義親 氏 1973年4月にジェトロ入会後、アジア事業、海外調査、内外の展示会、博覧会業務を多数経験。海外はシカゴ、トロント、シンガポールに勤務。2010年6月ジェトロ退職、幕張メッセ 常務取締役に就任。2010年から日本展示会協会国際化委員会副委員長(~16 年)、アジア展示会コンベンション団体連盟(AFECA)の理事・副会長(~2015 年)、2011 年から 2014年まで国際見本市連盟(UFI: The Global Association of the Exhibition Industry)の理事(Member of Board of Directors)に就任。現在、日本イベント協会 理事・主席研究員。 |