CEATECエグゼクティブプロデューサー
鹿野 清 氏
IT分野で国内最大規模を誇る「CEATEC」は2020年10月、新型コロナウイルスの影響を受け史上初となるオンライン開催へと踏み切った。それから1年。昨年に続き、オンラインで開催されるCEATECがどのような進化を遂げたのか、鹿野清エグゼクティブプロデューサーに聞いた。(インタビュー=2021年9月14日)
ゼロベースからプラットフォームを構築
2年目のオンライン開催では更に改善を
―CEATECをオンライン化した経緯を教えてください
CEATECは今年で22年目を迎えますが、昨年はCEATEC史上初となるオンライン開催へと踏み切りました。昨年初頭に新型コロナウイルスがまん延し、その動向を注視しつつも、春先までは例年通り幕張メッセでリアル開催をする予定でした。ですが、新型コロナの勢いはわれわれの想定をはるかに凌駕しており、国内外で大規模展示会が次々と中止を発表していったのです。
われわれも大いに悩みました。そして、例年会期4日間で15万人近い人が来場するCEATECを幕張メッセで完全に安全な状態で開催することは困難だと判断し、5月の連休明けにオンライン開催へと方針を転換することを正式に発表しました。
―前例のないオンライン開催はどのように準備が進められていきましたか
経験もなければ知識もない、まったくのゼロベースからの出発となりました。まずはプラットフォームがなければ話にならないということから、外部の企業にもお力添えをいただき、急ピッチで整備を進めていきました。
不幸中の幸いだったのがCEATECはCPS/IoTの展示会であり、各種システムの刷新をはじめとする事業のデジタルトランスフォーメーションに着手していたことです。特に2019年に構築していた事前登録システムを活用し、目に見える部分や中身を整備し、フルスペックのプラットフォームを作り上げました。
そのかいもあって10月に開催した「CEATEC 2020 ONLINE」はトラブルもありましたが、アーカイブ期間も含めると例年と同程度である15万人の方にご来場いただき、成功裏に終了することができました。
―そして2021年にはリアル開催が復活する予定でした
今年3月に開催概要説明会を開き、オンラインと幕張メッセ両方での開催を発表するとともに、出展募集を開始しました。オンライン展示会はまだまだ試行錯誤で課題も多く、リアル開催を望む声も大きかったので、2年ぶりとなる幕張メッセでの開催は心待ちにしていただいていた方も多かったかと思います。
ところが、今年に入ってから新型コロナの変異株が猛威を振るようになってしまい、収束の目途が立たなくなってしまいました。そのため、昨年と同様にJEITAで協議を行った上で、残念ではありますが今年も完全オンラインでの開催となりました。
―苦渋の決断だったかと思います
ですが、落ち込んでばかりもいられません。今年は昨年と違い、オンライン開催のノウハウがあり、課題も見えている状態からのスタートでした。また、これまでは3団体によるCEATEC実施協議会が主体となって運営にあたっておりましたが、今回から主催がJEITAに一本化されたことで、内部での綿密なコミュニケーションやスピード感のある決定が可能となりました。
2年目のCEATECはいかにオンラインのアドバンテージを活かし、出展者のベネフィットに沿った展示会を実現するかという挑戦になります。そのためにプラットフォームを改善し、ギリギリまで調整を行った上で本番に臨みます。
課題はリアルタイムコミュニケーション
出展者から来場者へアプローチが可能に
―昨年CEATECをオンライン開催した際、反響はいかがでしたか
出展者からは思った以上にポジティブな意見をいただきました。CEATECには大手企業からスタートアップまで幅広い出展者がいますが、昨年10月時点でこれだけの大規模展示会をフルプラットフォームで開催したのは国内ではCEATECが初めてだったので、そこが大きく評価されたのだと思います。
延べ15万人という来場者数もさることながら、目を見張るべきはコンファレンスの盛況ぶりでした。オンラインということで会場のキャパ制限がなく、多いものでは1セッションあたり5,000人が聴講したものもあります。平均しても1セッション1,000~2,000人ほどが聴講したのではないでしょうか。また、企業による有料セミナーはビジネスにつながる情報収集の場として機能していました。
―オンライン開催のメリットとデメリットについてどのように考えますか
大きなメリットとしては先に述べた通り人数制限がないこと、来場者のデータを取得できること、距離を問わず国内外のどこからでも参加可能なことが挙げられます。2019年までCEATECは幕張メッセで開催してきましたが、来場者の多くは首都圏近郊の方でした。ところが昨年は、中部・関西地域や北海道、沖縄などからの参加者が目に見えて増えました。これはオンラインならではの強みと言えます。
一方で課題としてはリアルに比べてコミュニケーションが生まれにくい点、臨場感が得づらい点などが挙げられます。リアルの会場であればブースには必ず説明員がいて、気軽に製品やサービスについて尋ねることができます。ですが、オンラインの場合は説明員の姿が見えず、チャット機能で尋ねようにもなんとなく気おくれしてしまいがちです。また、リアルであればブース内の来場者に対して出展者から声をかけることが多いですが、オンラインではどうしても向こうから声がかかるのを待ってしまう傾向があります。
それから、リアルの場合は人だかりができていれば気になって見に行ったり、ふらっと会場を見て回ることによる偶然の出会いがあります。そういったリアルの良さは、昨年のオンライン開催ではまだまだ再現しきていなかったと受け止めています。
―今年のCEATECではその点が改善されているということでしょうか
リアルタイムコミュニケーションに近づけるよう、今回からビデオチャット機能を搭載したり、出展者から来場者にアプローチできる仕組みを作ったりと、改善を施しています。これらにより商談もスムーズに行えるようになりました。
また、臨場感を得やすくするためデザイン面を3Dっぽく改善し、来場者が目的のブースにたどり着きやすい設計を目指しました。そのほかにも来場者やカンファレンスの聴講者の盛り上がりが可視化できる仕組みも導入しています。
プレからアフターまで3カ月の情報発信
展示会という概念にとらわれない展開を
―「CEATEC 2021 ONLINE」の注目ポイントを教えてください
今年は会期を9月9日からのプレイベント、10月15日のオープニングデー、18日のメディアデー、19日からのメインイベント、メイン終了後から11月末までのアフターイベントの5つに区切っています。プレイベントではカーボンニュートラル、5G、モビリティ、スーパーシティ/スマートシティといったSociety 5.0の実現に資する4テーマを柱にセッションを配信しました。
事前のプレイベントで今年のCEATECのテーマを理解していただくことで、メインイベントへの期待感を高めることができます。また、昨年は会期初日に入場登録が集中しトラブルが生じてしまいましたが、プレイベントにより事前登録を促進することで混雑緩和にもつながります。システム自体の改善も図っていますので、今年はスムーズにご来場いただけるかと思います。
また、例年は会期初日の午前中に実施していたオープニングを別日に設けたことで、メインイベントの4日間は展示やコンファレンスに集中していただけるようになりました。アフターイベントではCEATEC AWARD受賞企業によるセッションを行い、延べ3カ月にわたり情報を発信していきます。
―これまでのCEATECとは大きく変わった印象を受けます
昨年は急きょオンライン開催となり、手探り感が強かったのも事実です。ですが、2年目ともなると周りからの期待も大きくなっており、単なるリアルの代替以上を求められています。「展示会だからこう」という型にはめるのではなく、「オンラインならではとしてできることは何だろう」と一から考え直し、CEATEC自体の価値を高める形式を取りました。
―今後の展望についてお聞かせください
CEATECが目指すのはSociety 5.0の実現であり、そのためには出展者と来場者という括りにとどまらず、出展者同士が結びつくことで生まれる共創の場が必要です。そのための場を提供することがわれわれの役割であり、それはリアルであろうとオンラインであろうと変わりません。
仮に今後、新型コロナが収束したとして、2019年以前にすべてが戻るということはないでしょう。リアルとオンラインの特性を理解し、2つを融合させ新しい展示会を作っていく必要があります。単にリアルとオンラインを同時に開催する、いわゆるハイブリッド形式ではなく、2つの世界がシームレスに影響を与え合うデジタルツインの展示会を目指します。