座談会 「総務」の仕事から学ぶ、企業の方向性/日本映像機材レンタル協会(JVRA)×ピーオーピー 合同企画

日本映像機材レンタル協会(JVRA)は、イベントの映像・音響機材のレンタル業を手掛ける企業や機材メーカーなどで構成される。昨今の世の中の変化に合わせて、各企業の考え方や方針、コロナ禍での対応策も日々アップデートしている。JVRA はこうした考え方や情報の共有、会員同士の交流を深めるため、さまざまな活動を定期的に行っている。今回は社内の動向や事情に詳しい「総務」部門のメンバーが各企業から集まり、座談会を実施した。企業の全体を見渡し、かつリアルタイムな社内の動きを知る彼らの視点から、イベント業界の進むべき道を探る。


◆出演者
・映像センター 管理本部 総務部 次長
長澤 憲邦 氏

・光和 総務部 総務課 課長代理
石倉 伸也 氏

・シネ・フォーカス 総務部 部長
小山 良介 氏

・ヒビノメディアテクニカル 管理部 総務課 課長
古茂田 敬 氏

左から長澤氏、石倉氏、小山氏、古茂田氏

◆ペンの注文から制度の改定まで
─総務と一口に言ってもかなり幅広いお仕事ですよね。普段の主なお仕事について教えてください

小山 映像業界は少し特殊な業界ですが、経理と総務の仕事はあまりほかの業界と変わりません。日々の会計処理や給与計算、社内規定の立案などを行っています。

古茂田 総務の仕事全般を担当するとともに、IT 関係が主な担当ですが、一概に「これをやってます」という説明が難しいくらい、多岐にわたって業務をこなしています。事業戦略、経営企画、ウェブマーケティング、採用に加えて、最近は社内のコロナ対策についても担当しています。

長澤 総務全体の管理や給与に関する業務が主です。ほかにも各種保険の手続きから転勤者のための書類作成、さらに細かな仕事では社内の席替えや文具の発注にも対応します。ちょうど今の時期は、就業規則に関する業務も抱えています。制度の確立や運用、改定などを行います。

石倉 主な担当は給与処理や法務関係、顧客との契約書のチェックです。今の役職に就いてからは総務部の統括を行っていますが、元々は新卒採用と新入社員の研修を中心に行っていました。採用についてはメインの担当ではありませんが、今も引き続き携わっています。

◆“コミュニケーション”が肝
─仕事をするうえで心掛けていることはありますか

長澤 総務の仕事は計算や書類の作成など、必要不可欠ではあるものの、ルーティンワークも多いため、やりがいを感じにくい仕事かもしれません。ただ、いつも目標として掲げているのは、社員が当たり前のように安心して働ける環境を整えること。これさえできていれば、なにもないということが一番良いのかなと。

古茂田 私も社員がストレスなく仕事に専念できる場所をつくれるように常に考えています。総務は社員がお客さんのサービス業です。常に社員に対しホスピタリティといいますか、杓子定規にならないコミュニケーションを取るように心がけています。

小山 総務はコミュニケーションがとても大切になってくる仕事だと思っています。古茂田さんの言う通り、総務は社内を相手にするサービス業であるとともに、会社全体を見渡して業務を進めていかなければいけないシーンが多い。
例えば社員から社内規定の変更や備品の購入といった要望があったとして、要望をその場で聞き入れるのは簡単ですが、われわれは「要望を聞き入れたことで逆に起こる問題」を予測して可否を判断しています。例として社内から「会社携帯がほしい」という要望があったとします。すると、われわれは導入の効果に加え、今後不要になったときのことや、他部署からも同じ要望が出た場合に対応できるかも考えなくてはいけない。これらを社員にどのように説明し理解してもらうか、日々頭を悩ませています。さまざまなことを考慮した結果として、要望が却下された場合、要望を出した人からすると「要望が通らなかった」という事実しか残らない。これではお互いの視点にギャップが生じます。これを埋めるには、要望者の目的や考えを聞き、その上でこちらの意図も丁寧に説明することが大切ですが、限られた時間でそれができないこともあります。本当は時間を取ってきちんと説明できると良いのですけどね。

石倉 たったひとつの制度を決めるときにもコミュニケーションは欠かせません。例えば、とある部署で起きた問題を解決するための制度を作るとき、多くの場合はその部署だけではなく、組織全体で確立を図らなければなりません。しかし、問題が起きた部署は積極的に意見をくれますが、違う部門は他人事のようなスタンスのときがある。どの部署にも必要な制度であることをいかに理解し関わってもらうかを説明しないといけませんから、やはりコミュニケーションが肝ですね。

─コロナ禍によりテレワークやオンライン会議システムが普及しましたね。皆さんの周りでもコミュニケーションの在り方が大きく変化したと思います

古茂田 コロナ禍になってから、急速にZoom やTeams といったコミュニケーションツールが普及してきて、仕事上も新しいコミュニケーションの形が確立されました。私もメールや掲示板で社員たちとやり取りをする機会が格段に増えましたが、相手のリアクション、リアルな反応が感じ取りづらく、本当に伝えたいことが伝わっているかは、正直わかりません。私が送ったものを相手がきちんと確認してくれたとしても、わざわざ反応を返してくれることなんてあまりありませんから。

小山 テレワークにより社員と直接対面で会える機会がかなり減りました。やはりテキストや音声だけのコミュニケーションは難しく感じます。会議システムに映像が出ていたとしても、お互いの感情や話す調子といった細かい情報は伝わりにくい。ですから、メールで連絡をしつつ電話も使い、お互い出社のタイミングが合えば直接会うといった具合で、念には念を入れています。

長澤 私たちは社歴も長くなってきていますし、コロナ前から社員と交流をしていますから、ある程度は周りの状況や社員の考えていることを把握できます。しかし、最近入社してきた社員たちは先輩がいない中で過ごし、信頼できる人間関係もなかなか作り上げられず戸惑っているのではないでしょうか。私たち総務のお客さんは社員ですから、サポートをしていくべきだと思います。チャンスがあるときは声をかけたり状況を聞いたり、なるべくこちらから聞き出すようにしています。

─チームや部署内のコミュニケーションで意識していることはありますか

石倉 仕事の話だけでなく、ニュースや芸能の話といった世間話もするようにしています。部下はうるさいなと迷惑がっているかもしれませんが。
それから、当社だけかもしれませんが、男性社員はなかなか愚痴や悩みなどを話してくれない傾向があります。女性社員からの方が、ざっくばらんに色んな要望が飛んできますから、素直に悩んでいることもわかりやすい。でも、特に若い男性社員であればあるほど、こちらから聞いてみても「いや、大丈夫です」という回答ばっかりで、本心がなかなか見えてこないんですよね。今後は彼らにとっても悩みがあれば話しやすい環境を作ることが目標です。

長澤 私も仕事のことだけではなく、それ以外の他愛のない話をしながら、若い社員たちの考えを聞き出すようにしています。そこを取り掛かりに仕事の話をしたり、アドバイスを伝えたりすることもできるので、こまめにきっかけを作ります。先日、オンライン飲み会も企画しました。本来は年に数回行っていた懇親会が今はできないので、代わりとして行ったものです。参加する社員の家に食べ物が届くように手配して、みんなで同じ食べ物を食べながら話ができるようにしました。社員とのコミュニケーションについては、これからも引き続き工夫していきたいですね。

◆業務のデジタル化
─あらゆる業界でデジタル化やDX が叫ばれていいますが、皆さん総務のデジタル化も進んでいるのでしょうか?

小山 従来は当社もアナログで、勤怠や経費精算をすべて紙でやっていました。現在はすべてデジタル化し、スマホやPC でさまざまな申請が可能です。アナログで管理していたころは集まらなかった勤怠管理や経費に関するデータが集まるようになり、さらにデータを分析することで新たに見えてくる課題があります。昨年、新たにに経理ソフトを導入したことで、部署ごとに使っている費用の詳細がまとめて見られるようになりました。将来的には累計データから別の分析が可能になると思いますので、結果をどのように事業計画へ生かすかが、次の課題ですね。

古茂田 給与明細や経費精算をペーパーレス化し、現在はデジタルで行っています。それ以外の申請書類や電子署名などの電子化も進めていく予定です。引き続き在宅勤務やテレワークが増えているため、リモートでほとんどの仕事をこなせるような体制の構築も視野に入れています。併せて、データを利用したWEBマーケティングについても強化しているので、ホームページを活用した収益アップにも力を入れています。

◆社員が安心して働ける環境のために
─今後の目標や挑戦してみたいことはありますか

小山 今後も業務のデジタル化により、業務負担の削減や作業効率化は進んでいきます。次の課題はデジタル化により得られたデータを如何に業務で活用できるようにするかだと考えています。また同じ映像業界で働く立場でも、現場の方々と違い、総務は横のつながりが少なくなりがちな部署です。私はJVRA に事務局として3年間携わったことで、たくさんの人と知り合うことができました。今後も出会いが拡げられるようなアクションを続けていければと思います。

古茂田 経費削減など総務の面から組織に貢献するのはもちろんのことですが、IT 関連の部署で働いていた経験を活かし、デジタルツールの活用やペーパーレス化を実現し、情報を使って新しい価値を創出することで、事業拡大・業績拡大に貢献していきたいです。なにより、現場で働く社員の力になれるよう、取り組んでいきたいですね。

長澤 全社員が安心して働ける会社作りを常に念頭に置いていますから、まずは福利厚生の充実を進めていきたいです。昨年は当社が用意している福利厚生がわかりやすく一覧になっているハンドブックを作り、社員に公開しました。せっかく同じ企業の仲間として働いてもらうのであれば、長く健康で働いてほしい。今後は健康経営や企業年金の制度などを探究・検討していきたいです。

石倉 会社に溜まっているデータをまとめるためにも、デジタル化の推進を目指します。社員が働きやすく、多くの人が集まる組織にしていくためにも必要になってくるのではない
でしょうか。いち早くデータから残業の多い社員を見つけて声をかけたり、体調の異変や悩みがあれば汲み取ったりすることができるのも、広く会社全体を見渡している総務の人間だと思います。企業にとって一番重要なのは、やはり「人」ですから。

◆今後のJVRA・ホームページ委員会の活動について
―今回の座談会を主催するJVRA・ホームページ委員会は、今日の座談会のようなJVRAに携わるきっかけとなるような活動を継続的に行っていますね。今後JVRAをより良いものしていくためには、どんな活動が必要だと考えていますか?

小山 JVRAは他の同業団体と比べて横のつながりが深いところが一番の特徴だと思います。同じ業界の競争相手ではあるものの、今回の座談会のように集まって和気あいあいとお互いに仕事の話をできるのはほかにはない長所です。現在コロナ禍により、イベント業界は苦境に立たされている。こうした時代だからこそJVRAから新しいイベントの在り方を、世に向けて発信すること求められているのではないでしょうか。一社ではできないことでも、協会の持ち前のつながりを使えば、不可能ではないと思います。

石倉 私は今日初めてこの座談会、JVRAの集まりに参加しましたが、協会内の仲の良さは以前から感じていました。ライバルというより、心から協力してこの業界をなんとか盛り上げようとひとつになっている印象です。今後もっとこの良さを活かすなら、普段からJVRAの活動に積極的に参加している人たち以外にも、交流ができる場があればよりネットワークが広がっていくのではないでしょうか。例えば、私たち総務の立場の人間が集う、『JVRA総務部門』の活動のような。

古茂田 JVRA が一丸となって活動を継続することで、業界を世間に周知するだけでなく、映像業界の地位向上にもつながると思います。業界のステータスがあがることによって、もっと若い世代や優秀な人材が集まれば、業界全体の底上げにもつながります。そのためにも、映像業界のステータス向上を軸とした活動を企画していくことが必要だと考えます。

長澤 今回私も初めてJVRAにかかわるメンバーと話をさせていただきました。私と同様に、会員企業の中でも協会とかかわっている社員は、実は限られているのではないでしょうか。JVRAはせっかく良いネットワークを持っていますから、まだJVRAに携わっていない人たちにも、他の会員企業の社員とかかわることができるきっかけとなるイベントや活動がもっとあればいいと思います。私自身も今回参加して、いろいろな情報交換ができる仲間ができました。今後はこうした、気軽に話や情報交換ができる機会を協会内の若い世代にも提供できるといいかもしれませんね。