寄稿 展示会産業はコロナ禍から何を学ぶべきか? 寺澤 義親 氏

4⃣ ビジネスイベント(コンベンション産業)は大きいのか?

1)何故ビジネスイベントの理解が進まないのか
ビジネスイベントが持つ産業や地域さらには国へのミクロ、マクロベースでの役割や貢献について理解が深まらないのは普段の生活の中でその実態が見えにくいことがある。そのため世界や各国の業界団体ではコロナ禍では特にそうであったがビジネスイベントの雇用、税収を含め経済効果についてアピールしてきている。
例えばUFIは世界の展示会産業の経済波及効果調査(Global Economic Impact of Exhibitions2019」で2018年の世界の展示会産業は320万人を雇用し創出されるGDPは1975億米ドルとなり、その規模はハンガリー、スリランカのGDPよりも大きく世界で56位に相当すると報告している。
米国や国際的なMICE団体で構成するEvent Industry Council
でも2018年2月にレポート「Economic Siginificance of Meetings to the US Economy」を発表している。ここで米国のコンベンション産業は波及効果として自動車、石油・ガス産業よりも多い590万人を雇用しGDPに4,460億米ドルの貢献があるとアピールしている。

日本でもビジネスイベントを含むイベント全体については日本イベント産業振興協会が国内イベント消費規模推計を毎年発表。観光庁も過去に国際会議や国際MICEを対象とする波及効果調査を実施しているがビジネスイベントの全体が見えるものにはなっていない。さらに世界中のイベント会場施設の大半は自治体が開設運営しているので経済効果調査を定期的に行い費用対効果と地域のブランドや魅力につながっていることをアピールする努力を続けている。日本でも主要な施設はこの種の波及効果調査を実施しているが頻繁にこの種の情報を外部に発信できていないこともあり、ビジネスイベントを取り巻く全体像がなかなか見えにくいということではないか。
国内でも昔と比較すると有力な展示会やイベントについてはテレビや新聞で最近ではSNSでも報道されることが増えているが主要産業や有力企業動向の報道よりは断然に少ない。そのためビジネスイベントはまだまだニッチでその実力が評価されていない。今回のコロナ禍のなかで世界中の業界団体とグローバル企業のトップが痛感したのはビジネスイベントの実力と可能性をもっともっと理解してもらおう。特に政策決定者の政治家や行政からの理解と強い支持を得る必要性だったと思う。

2)身近なプロスポーツとコンベンションを比較する
ビジネスイベント(コンベンション)の経済効果など実像が見えにくいことに関連して米国Exhibit City News(11月30日、2021年)のコラムでMr.Bob McGlincyがコンベンション産業の大きさについて面白い記事を書いているので紹介したい。同氏はまず米国の雇用で2019年に410万人が働く自動車産業が一般の人からは660万人のコンベンション産業より大きいと考える理由として2つ挙げている。
1つ目はコンベンションに参加する人より多くの人が自動車を運転していて日々の生活の中で車のデーラーや修理店など自動車に関係するものをたくさん見ていること。2つ目は自動車メーカーを代表する企業は大企業で誰でも知っていることを指摘する。
一方、コンベンション産業の大半は小規模事業者でトップの数社は業界内では知られているが業界外では知られていないことが多い。
さらに同氏はコンベンション(ビジネスイベント)産業の大きさをわかりやすく説明するために米国で人気のあるプロスポーツ分野と比較している。米国では誰でも知っている4大プロスポーツの大リーグとナショナル・フットボールリーグをコンベンションとさらにコンベンションとプロスポーツを代表する6イベントを比較している。これは市民にもわかりやすい比較となりユニークなアプローチになっている。

❶コンベンションを来場者数と売上でMLBやNFLと比較する

ここでのコンベンションには社会的、教育的イベントに娯楽を除く全てのB2BとB2Cのミーティングが含まれトレードショー、コンベンション、コンファレンス、コングレスがカバーされている。図─1を見ると2019年のコンベンション来場者数は8,130万人でMLB(6,980万人)、NFL(2,050万人)を凌駕し売上でもNFLとMLBを上回っている。しかしこれで単純にコンベンションはプロスポーツトップ2を上回る規模と見るのではなく、コンベンションも大く引き離される存在ではないと見る方が適切なのかと思う。
何故ならばNFLやMLBの市場規模はフォーブス調査からも確認できるがコンベンション売上数字の捕捉はなかなか難しいところがある。来場者数もNFLやMLBは有料来場者だがコンベンションには無料来場者が相当含まれている。それにNFLやMLBは基本ハイブリッドイベントになっておりテレビ視聴者数はコンベンション来場者数を大きく上回っている。

❷コンベンションとプロスポーツのトップイベントを比較する

図─2は2019年のMLBからワールドシリーズ、ゴルフのマスターズ、NFLからスーパーボウル、コンベンションからはCES、SXSW, Detroit Auto Showと我々でも良く知っている6イベントの開催期間、来場者数、経済効果を比較している。

ここでコンベンションを代表する3イベントの特に経済効果が大きいことを確認できるがこれだけで単純にCES,SXSW等のイベントがSuper Bowlを超えるイベントとは言えない。例えばDetroit Auto Show(North American International Auto Show)は会期が長いため経済効果は4億5,000万米ドルに達して経済効果が通常2億米ドルと言われるSuper Bowlと比較すると2回開催に相当する効果をあげた。
しかしSuper Bowlの波及効果は開催地にとどまらないインパクトがある、例えば2019年はアトランタで開催され地元への経済効果は1億8500万米ドルだったが、そのSuper Bowlをラスベガスで楽しむ人が30万人訪問して同地への経済効果は4億2,600万米ドルだったとラスベガス観光局は報告している。
また経済効果は開催地でも違ってくる。2020年のSuper Bowlはマイアミで開催されたがこの時の南フロリダへの経済効果は2019年実績のほぼ3倍となる5億7,190万米ドルだったと報告されている。
World Seriesの経済効果も1試合平均で500万米ドルから1,000万米ドルと言われ開催地でも違いがでてくるようだ。さらに来場者数を見ると例えばSuper Bowl2019年は7万人となっているがこれはチケット購入者のみで実際には市外からの15万人を含め合計で50万人がアトランタを訪問している。
さらにテレビ視聴者数を見るとSuper Bowlは9,820万人、マスターズの最終日は1,100万人、World Seriesは1試合当たり平均で1,400万人となっておりまさに国民が熱狂する超ビッグイベントになっている。
従ってここでも言えるのはトッププロスポーツと比較すると一般市民からは見えにくいがコンベンションもインパクトで負けていないし経済効果では大きな貢献を果たしている、ということである。さらにオーステインと言えばSXSWの街というように地元ブランドをアピールするうえでも大きな力になっているということではないか。コンベンション(ビジネスイベント)についてそんなメッセージを発信するためにトッププロスポーツと比較するのはユニークで大変有効になっている。